「もし、あの時〇〇していたら…」と後悔した経験はありませんか?
若い時の後悔はともかく、老後の後悔は取り返しがつきません。
なぜならば、挽回する時間も気力も体力もないかもしれないからです。
だからこそ、老後のリスクマネジメントは老後に入る前に始めておく必要があります。
老後になってから、「もし、あの時〇〇していたら…」と思わないためのリスクの認知と検討についてご説明しましょう。
🔹老後のリスクマネジメントに不可欠なのが 反実仮想(Counterfactual)と予期的後悔(Anticipatory Regret)の技術
🔹予め、人生を左右するような重大なリスクを認知して、それへの対処をちゃんと検討した上で、対応を決定しておくことが必要
🔹しかし、そもそも検討すべきリスクの認知がなければ、反実仮想も予期的後悔をすることはできない。老後の重大なリスクをフレームとして漏れなく認知しておく必要がある。
世界一の地震大国である日本に住む人にとって、地震に対する備えは最も重要なリスクマネジメントであると言えます。そこで、地震で家を失った家族のケースを通じて、合理的な意思決定プロセスの力を考えてみましょう。
意思決定プロセス
現代の心理学は人間には2つの認知プロセスが走っていることを突き止めました。無意識(直観)と意識です。
今、目の前にあることに対する判断は直観だけで判断してもたいがい間違いがないのですが、経験したことがない将来のことについては意識を使って慎重に意思決定をする必要があることがわかっています。
なぜ、将来のことを直観だけで判断してはならないのか?
直観は遺伝子の指示と過去の経験のパターン認識の2つから成り立っており、そもそも未経験のことを判断する能力がないからです。それに対して、人間だけが持つ意識は、目の前にないことを反実仮想(想像)する力があるのです。
意識を持ちながら、人間は直観を多用します。なぜならば直観は無意識に働いてくれる上に、脳に対する負荷が軽いからです。逆に意識は脳に大きな負担を掛けるので人間は使いたがりません。
直観と意識を上手に組み合わせて選択する技術が将来を大きく左右します。
下の図は現代の合理的な意思決定プロセスのフローです。
上に無意識(直観)、下に意識を用いた合理的な意思決定プロセスを平行に描いています。

<リスクへの対応の順序>
リスクの認知 → リスクの検討 → リスクの回避策の選択
後悔しないための合理的な意思決定には、リスクの認知のみならず、リスクの内容の充分な検討が不可欠です。
地震で家を失って、自分の選択を後悔した家族のケース
地震保険に加入しない選択をした結果、地震によって家屋が倒壊して、途方に暮れる家族の姿です。住宅ローンを抱えて、預貯金の少ない家族は地震保険に加入しない選択をしたことを後悔しました。地震保険に加入しなかった理由を振り返ってみましょう。
<1/8>フレーミング:地震のリスクの認知
家族はもちろん地震を知っていましたし、住宅ローンの契約の際に義務づけられている火災保険の加入の際に合わせて地震保険特約への加入も勧められたので、地震の自宅に対するリスクは認知していました。
<2/8>現状確認
銀行から地震保険の加入をすすめられたにもかかわらず、断ったため、地震による損害をカバーする地震保険金がない現状を理解していました。
<8/8>選択:地震リスクの保有
地震保険特約の契約をせず、地震による家屋への損害のリスクを自らの選択で保有しました。
その時の判断の理由を後で聞くとは以下の通りでした。
(1)地震保険特約の保険料が高い
(2)最高でも家屋の保険価格に対して50%しか補償されない
(3)地震は起こるかどうかわからない
以上が地震が起こって自宅が倒壊したにもかかわらず、地震保険特約の補償がなかったために後悔に至った経緯です。
この家族に後悔をもたらした意思決定のどこに問題があったのでしょうか?
地震保険特約に加入しておけばよかったではないか。というだけでは結果論に過ぎません。
なぜ、加入しないという選択に至ったのかというリスクの認知と検討のプロセスが問題です。
この意思決定のプロセスの問題を解消していかないと、またぞろ人生において将来重大な影響を及ぼすリスクへの対処を誤ってしまうからです。
地震で家を失ったものの、自分の選択で救われた家族のケース
地震保険への加入を選択した結果、地震によって家屋が倒壊したにもかかわらず、地震保険金をもとに自宅を再建することができた家族の姿です。
地震保険の保険料は負担となりましたが、加入することによって後悔を回避することができました。後悔を回避することができた理由を振り返ってみましょう。
<1/8>フレーミング:地震のリスクの認知
家族はもちろん地震による自宅へのリスクを知らないわけではありませんでしたし、住宅ローンの契約の際に義務づけられている火災保険の加入の際に合わせて地震保険特約への加入も勧められたので、地震のリスクは認知していました。
<2/8>現状確認
地震保険特約に加入しなければ、地震が発生した場合に、家を再築する費用が用意できない現状にあることを確認することができました。
🔸 現状は基準点(あるべき姿)に対比してはじめて明確に認識することができます。
<3/8>反実仮想
地震保険特約に加入しない状態で、地震が発生して家屋に損壊が生じた場合の影響を反実仮想(現在目の前にないことを想像する)したところ、以下のようなリスクが浮かび上がってきました。
(1)一次的なリスク
倒壊した家に住むことができなくなり、再築するのに多額の資金が必要となる。
実際の経済的損失(家の後片付け、再築、住居費用など)は3千万円に登ると計算した。
(2)二次的、三次的なリスクまで反実仮想する
①避難所、災害公営住宅において不自由な暮らしを長期間にわたって強いられるリスク
②避難所においてプライバシーのない生活を送ることになるリスク
③家族の健康、メンタルが犯されるリスク
④職場への通勤、子どもの登校が不便になるリスク
⑤子どもが勉強する環境がもてなくなるリスク
⑥自宅が店舗、工場等との併用住宅であった場合に、仕事を失うリスク
⑦同居していた高齢の両親を災害関連死で失うリスク
⑧泣いている家族の姿を見ていたたまれなくなるリスク
🔸 リスクは一次的なものだけに限ってしまうと軽く見えてしまいます。二次的、三次的と広く、水面下の氷山のように深く反実仮想することによって、リスクの大きさ、深刻さが見えてきます。まだ生じていないリスクの及ぼす影響をどれだけ具体的なイメージで反実仮想することができるか否かが、その後の検討と選択の結果を大きく左右します。
<4/8>因果関係
先ほど反実仮想した状態になる原因が何であるかを考えてみました。
原因は複数考えることができますが、地震保険特約に加入していないことがその原因のひとつです。
<5/8>解決策
地震保険特約に加入することです。
保険料は安くはありませんが、反実仮想したリスクを考えると高いとは言えないと判断しました。保険価格の50%までしか補償されない地震保険ですが、50%あれば長期間にわたる避難所、災害公営住宅における居住を少しでも短くすることができると考えました。
<6/8>予期的後悔
「もし、地震のリスクに対して、今、地震保険に加入しておかないと将来後悔することになるだろうか?」
と予期的後悔をしたところ、間違いなく後悔することになるだろうと予期的後悔をすることができた。
🔸 後悔は過去の自分の選択を責める気持ちですが、予期的後悔は将来の自分に今の自分を責めさせないための行為であり、反面将来の自分を思いやる行為だと言えます。
<7/8>コスト試算
3000万円の保険価格の住宅に対してその50%の地震保険特約の年間保険料を見積もりしてもらったところ、約61.650円であることがわかった。
🔸 どんなによい解決策を思いついたとしても、実現可能性がなければなりません。手間、暇、コスト試算は選択の大前提となります。
<8/8>選択
地震保険特約に加入することを選択した。
反実仮想したリスクに対して61,650円の保険料を支払わないと将来後悔することになるだろうと判断したのです。
地震保険に加入した半年後に地震が発生!
自宅は倒壊ましたが、地震保険のおかげで再築費用をカバーすることができました。
家を再建し、家族の生活と仕事を立て直すことができたのです。
「もし、あの時、地震保険に加入する選択をしていなかったら…」と考えると、合理的な意思決定プロセスを用いて判断しておいて本当に良かったと実感したのです。
リスクの認知と検討の技術

後悔したケースは、直観だけで人生を大きくする左右するリスクに対する判断を行ってしまいました。合理的な意思決定プロセスの<3/8>から<7/8>までを飛ばしてしまったのです。
リスクの認知については、一次的なリスクを浅くみただけであり、二次的、三次的なリスクまで深掘りして反実仮想をすることができていませんでした。
リスクの検討についても反実仮想と予期的後悔をしておらず、人間らしく十分に考えた上で選択をしたとは言えない状態でした。
これでは、地震というリスクをちゃんと認知していたとは言えません。そして、地震のリスクをちゃんと認知しなかった結果、リスクと対策の検討のプロセスに至らなかったのです。
総じて言うと、リスクの認知と検討の技術を使わずに、ちゃんと考えなかったことが原因だったのです。
直観は将来の苦手な選択についても無意識に働いてしまうので、注意が必要です。
特に疲れている時、時間がない時、他に気になることを抱えているときの直観は危険です。
反実仮想、予期的後悔を使う現代における合理的な意思決定プロセスを使うのは、直観に比べるとはるかに面倒で、脳に負荷がかかります。しかし、人生を左右する重大なリスクに対する判断を直観に任せるようでは、考えることを放棄しているに等しいのです。
反実仮想と予期的後悔を活用すると「保険料が高い」という近視眼的な見方ではなく、将来を俯瞰して「リスクが現実になった時の被害」の方が圧倒的に大きいと感情的に理解することができます。
その結果、「今、決断すべきこと」が明確になり、長期的に見て合理的な意思決定が可能となるのです。
「もし◯◯が起こったらどうなるか?」をシミュレーションする習慣を身に付けることで、後悔しない選択をすることができるようになります。
(予告)人生ドック ー 後悔しない老後のリスクマネジメント
地震保険に加入していなかったために後悔したとしても、まだ若ければ、一生懸命働いて挽回し、家を再築することができるかもしれません。
しかし、老後に生じる後悔をリカバリーすることは、時間的、精神的、肉体的に容易なことではありません。
老後に生じるリスクをちゃんと認知しているでしょうか?
老後に生じる重大なリスクをちゃんと検討して予め対処法を決めているでしょうか?
忙しいかもしれませんが、人生に一度くらいは老後のリスクをちゃんと認知して検討しておいた方が安心だと思いませんか?
老後のリスクのフレームを漏れなく網羅し、それぞれのリスクについて現代における合理的な意思決定プロセスのトレーニングをセットしたオンデマンドウェビナー「人生ドック」を近日リリースします。
お楽しみに!
🔹 将来の重要なことの判断を直観(無意識)に任せてはならない
🔹 リスクの認知と検討は技術である
🔹 将来の重要なリスクへの選択には現代の合理的な意思決定プロセスを使うべき
🔹 反実仮想と予期的後悔は合理的な意思決定プロセスの要素
🔹 人生ドックが老後のリスクのフレームと、合理的な意思決定プロセスのトレーニングを提供する。
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