A.前向きの人生

人生100年時代を生きるためのストレス対処能力SOC(sense of coherence )

「 我らの人生は死である海へと向かう川だ」ホルヘ・マンリーケ

長い川下り(100年間)をしているとしたら、様々なストレス(刺激・変化)に対応する必要があります。ストレスは好ましくないモノ、好ましいモノ双方が含まれます。

長い人生で遭遇する大量かつ多種多様なストレスに上手に対処することができれば、気分良く海に達することができると思いませんか。

何と言っても、ストレスに対処するために不可欠なのが健康です。

国は健康寿命の延伸を唱えていますが、国に言われるまでもなく、人生を気分良く送るために健康は不可欠です。誰もが死を背負って生きているとは言え、できるだけ長く健康を維持してピンピンコロリで逝きたいと思っている人が多いはずです。

しかし、何も手を打たずにピンピンコロリで逝こうとするのは虫がいいと言われるかもしれません。ちょっと周囲を見渡せば、生活に支障を感じながら生きている人が多いことに気づくはずです。

そこで、人生100年時代を健康で長生きするためのヒントとしてSOC理論を紹介します。SOC理論は高齢者向けの理論ではありません。むしろ、学生の頃から知って意識した方がよいでしょう。

健康寿命の定義

そもそも、健康寿命とは何なのか?
日常生活に制限のない期間の平均及び自分が健康であると自覚している期間の平均です。さらに要介護2未満であるという条件も付け加わりました。

平均寿命と健康寿命の差が健康に問題を持ちながら生きていく不健康寿命なのです。

男性は  8.73年(81.41歳ー72.68歳)
女性は12.06年(87.45歳-75.38歳)

(出典:健康寿命の令和元年数値について 厚生労働省)
不健康寿命が長いと思いませんか?

WHO(世界保健機関)の健康の定義

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」 

(出典:健康寿命のあり方に関する研究会報告資料 厚生労働省)

WHOの定義は上の図を見ると理解することができます。健康は3つの要素の相互の関係性の結果であると考えられているからです。これらの要素がそれぞれストレス(刺激・変化)として健康に影響を与えているのです。

不健康な状態は結果だと考えた方が良さそうです。生物学的要素、社会的要素、心理的要素によるストレスの結果なのです。

そのように考えると、不健康な状態を招く様々なストレスとそれらに対処する術を知っておきたいと思いませんか?
そこで、アーロン・アントノフスキーが提唱したSOC(sense of coherence ,首尾一貫感覚)を紹介します。

死因と死因の原因の深掘り

人は生まれた以上誰であろうと死を免れることはできません。
死は不健康な状態の結果であると言えます。

そのように生をプロセスで考えると、死の原因となる不健康な状態を回避することができれば健康長寿になることができるはずです。

そこで、プロセスを追えば原因がわかり、回避する打ち手が見つかるかもしれません。
たとえば、家族が亡くなったとします。

医師の書いた死亡診断書には①脳梗塞と書かれていたとします。

その人はなぜ死んだのか?という問いに対して、脳梗塞で死んだというだけでは原因としては不充分です。脳梗塞になった原因までわかって初めて予防の対策が打てる意味のある回答になるからです。

その下位の死因として②糖尿病と書かれていると少し具体的になった感じがします。

しかし、問題はなぜ糖尿病になったかではないでしょうか?
それがその人のストーリーです。

たとえば、過食症で糖尿病になった場合にその人のストーリーには次のようなストレスが生じていたかもしれません。
・失恋した
・失業した
・家族を失った
・投資で失敗した
・仕事がおもしろくない
・骨折して運動ができなくなったetc.

その人を糖尿病にさせたストレスがわかったら、それに対処することにより、その人は糖尿病にならず、多発性脳梗塞にならずに健康に生きることができたかもしれません。

現在の医師と患者との関係性からは病気(直接死因)になる下位の原因はわからない場合が多いようです。直接死因の記載だけでも様々な要因があるので医師がその記載に迷うと聞きます。直接死因の下位の原因はさらに究明が困難です。よって、いまだ発病していない様々な疾病についてその原因を探した上で、あらかじめ対処することは難しいのです。それがわかっているのは生活習慣病の一部でしかありません。

疾病生成論の限界と健康生成論

このように、死とその直接的な原因となる疾病を引き起こす根本的な原因がわからない中で、健康を維持するための手法は、疾病から遡ってその原因となる直接的なリスク要因を取り除く方法が主流をしめています。これをアントノフスキーは疾病生成論と呼んでいます。

疾病生成論は、ホメオスタシス(恒常性)を前提として、ホメオスタシスを侵害するリスク要因を取り除けば健康を回復できるという考え方に基づいています。

疾病単位に考えますから、視点は患者個人を看るというよりは個別細分化した「504号室の患者の冠動脈」とか「306号室の患者の肝がん」というように、患者単位というよりは疾病、部位単位になりがちだと言われています。

最近チーム医療の必要性が取り上げられていますが、個々の臓器や疾病を見ているだけでは全体的な健康を回復することが困難となった事実と反省に基づく取り組みなのでしょう。

 

それに対して、SOCは健康生成論と言われ、病気は珍しいことではなく、エントロピー(無秩序化)の増大が生命体の特性であると考えています。

病気を特別の状態であるととらえるのではなく、現在の健康状態は健康と健康破綻の両極の間のどこかに位置すると考え、そのエントロピーの増大圧力に抗するSOCの強さが健康要因であるとする考え方です。

疾病生成論がリスク要因に注目するのに対して、健康生成論は健康要因にもフォーカスする点が大きく異なります。

SOCは生きる力とも言われ、健康状態を左右する心理社会的ストレッサーと身体的生物医学的ストレッサーにうまく対処する能力です。

アントノフスキーはSOCを次のように定義しています。

「首尾一貫感覚( SOC)とは、その人に浸みわたった、ダイナミックではあるが持続する確信の感覚によって表現される世界〔生活世界〕規模の志向性のことである。それは、第1 に、自分の内外で生じる環境刺激は、秩序づけられた、予測と説明が可能なものであるという確信、第2 に、その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られるという確信、第3 に、そうした要求は挑戦であり、心身を投入しかかわるに値するという確信から成る。」

(出典:「健康の謎を解くーストレス対処と健康保持のメカニズム」アーロン・アントノフスキー著)

確かにこの定義に当てはまるような人は総合失調症にはなりそうにありませんし、免疫力も強そうです。

ケース:疾病生成論とSOC健康生成論の対比

健康生成論では個々の疾病ではなく、病理を引き起こした患者の身の上のストーリーに疾病の原因を診ようとします(病因論)。 

重い膝の病気で入院した患者のケースが取り上げられています。

その患者は膝の症状を診断されて入院し加療の後に退院しましたが、すぐさま再入院となってしまったそうです。

その理由がまさにこの患者のストーリーだったのです。
・患者はⅠ年前に妻を亡くして親戚も知人もいないこの街に引っ越してきた。
・収入が少なく、エレベータのない建物の4階に住んでいた。

アントノフスキーはこのストーリーから、この患者は膝の病気だけでなく、栄養不良、肺炎、うつ病、自殺企画でも入院したであろうとしています。

疾病(膝)を点で診る疾病生成論的な診察と患者個人のストーリーを線で診る健康生成論の違いは大きいと言わねばなりません。

どうすれば強いSOCを創ることができるか?

とはいえ、そのような医師が出てくるのを待っているわけにはいきません。我々自身が医師に問われるまでもなく、一朝一夕にというわけにはいきませんが、遭遇する様々なストレスに対応するSOCを身に付けることができればよいはずです。

SOCの形成を促進するのは良質な人生経験だとされています。

第一に共有された価値化やルール、習慣に基づく一貫性のある人生経験
第二に負荷が過小でも過大でもないバランスの取れた適度な負荷のかかる人生経験
第三に好ましい結果が得られたことに自分自身も参加したという人生経験

この三つの人生経験がSOCの3大要素である把握可能感処理可能感有意味感の形成に繋がるのです。

(出典:「ストレス対処能力SOC」 山崎喜比古・戸ヶ里泰典・坂野純子編)

将来に対しても首尾一貫性を持つために

将来に対しても首尾一貫性を持つことができれば、SOCをより強力なものにすることができます。あるいは、現在強いSOCを持っていないと自覚しているのであれば、さらに将来に対する首尾一貫間隔が救いとなります。

SOCは良質な人生経験から形成されますから、未経験なことに対する効果は不明です。
そこで、SOCに加えて将来に遭遇するであろうストレスを予期して備えていたら、把握可能感および処理可能感は格段に高まるはずです。また、上手に対処することができた結果、有意味感も高まります。

また、今強力なSOCを有していたとしても、加齢に伴ってやはりSOCも衰えます。
SOCが衰えることを想定して、予め最期に至るまでのストレスを予期したうえで、どのように対処するか予めデザインしておけばよいと思いませんか?

おそらく、状況把握感と処理可能感が衰えたとしても、最後まで残っているのは有意味感でしょう。把握可能感と処理可能感は徐々に衰えていかざるを得ませんが、それを補う備えをしておくことによって、最後まで維持した有意味感によってHappy Ending を感じることができるかもしれません。

このように考えると、人生に大きな影響を及ぼすストレスについては、予め予期して備えておいた方がよいと思いませんか。

もし、SOCを強化し、補う何かがあったらやってみたいと思いますか?

Happy Ending カードは将来のストレスを予期することでSOC、把握可能感、処理可能感、有意味感を強化、補います。
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