ノーベル賞の起源は、ある一人の男の”後悔”でした。
爆薬王として莫大な富を築きながらも、世間では「武器商人」「死の商人」と呼ばれたアルフレッド・ノーベル
新聞の誤報が、ノーベルに自分の人生の物語を書き換える道を選ばせます。
本記事では、ノーベルの”後悔”を起点に、彼が合理的な意思決定プロセスを通じてノーベル賞を創設した過程を紐ときます。
人生をハッピーエンドにするために”後悔”は上手に活用すべきであるし、活用することが必要である!
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ノーベルがした後悔とは?
ある日、ノーベルは自分の死亡記事を見て驚きました。
見出しには、こうありました。
「死の商人、死す。」
死んだのは兄のリュトビックだったのに……
誤報でした。
いかにも、彼の事業の中核は砲弾、弾薬など爆発物を中心とする軍需産業でした。
「死の商人」、「武器商人」であることはまぎれもない事実だったのです。
しかし、彼は「死の商人」、「武器商人」などと言われたところで、ダイナマイト、雷管などを発明し、世界的なコングロマリッドを育てた自分に対する自信とプライドは微塵も揺るがなかったはずです。
一方、彼がその時に気づいたのは、自分の人生の物語のエンディングのシナリオでした。
「私の人生の物語は、人々の命を奪う者、死の商人、武器商人として終わるのか……」
彼は、今まで通り忙しく働いているだけでは「武器商人」、「死の商人」がエンディングの物語の主人公になってしまう……
少しもおもしろい物語ではない、自分がハッピーエンドになる物語のシナリオがないことに気づいてその点を後悔したのです……
しかも、彼の健康状態は決して良好とは言えませんでした。
今は「武器商人」、「死の商人」であるものの、最後はハッピーエンドの物語にしたいと思ったものの、健康も時間も十分ではない……
手遅れ?……
ハッピーエンドの物語にすることができないまま死んでしまうのかと思ったのです。
そこで、彼がその後にとった行動は、自分の人生の物語をハッピーエンドにするためのシナリオ創りであり、それがノーベル賞という史上空前の「発明」と実現に繋がったというわけです。
アルフレッド・ノーベルの”後悔”は堪えましたが、結果として彼の人生をハッピーエンドに導いたのです。
ノーベル賞はノーベルの”後悔”の結果として誕生したのです。
しかし、”後悔”だけではノーベル賞は生まれなかったでしょう。
“後悔”を起点としたフレーミング、反実仮想と予期的後悔を中心とする合理的な意思決定プロセスに沿ってノーベルの採った選択を解明していきます。
この合理的な意思決定プロセスはノーベルに限らず、あらゆる人の人生の重要な選択をする際に役に立つはずです。
合理的な意思決定プロセス
合理的とは様々な解釈がありますが、ここでは次の定義に基づいて話を進めたいと思います。
「目的を達成するために最小の努力で最大の効用を生む選択を行うこと」
目的(フレーム)があることが前提です。
目的がなければ行動もありませんから……
生きものとしての人間には時間に限りがあり(生後せいぜい100年)、使うことができる資源(健康、思考、お金等々)にも制限があるとすれば、ひとつのフレームを解決するためにあまり多くの時間と資源を投入してしまえば、ほかのフレームの解決ができなくなります。
従って、人間は無意識に最小の努力で最大の効用を生むように行動するものですが、その選択(フレームと対処方法)を誤る結果が後悔です。
そこで、次のHappy Ending カード流:8つの合理的な意思決定プロセスに沿って意思決定を紹介します。

このプロセスについてはこの後でノーベルの意思決定で具体的にご説明しましょう。
後悔を起点にしたノーベルの合理的な意思決定プロセス

新聞の誤報による後悔からノーベルが行った意思決定を合理的な意思決定プロセスに沿って紐解いてみましょう。
フレーミング、反実仮想(思考)と予期的後悔というような現代の心理学、意思決定論でクローズアップされている理論を組み込んだプロセスです。
検討すべき課題をフレームとして設定して、8つのプロセスを丁寧に踏んで行くことで、自分の価値観と能力に沿った適切な選択をすることができます。
面倒ですが、人生における重要な意思決定の際に役にたちます。
| 8つのプロセス | プロセスの内容 | ノーベルの選択 |
| 1.フレームを決める | 意識を集中して人生を左右する重要な問題に焦点をあてます | 「武器商人」、「死の商人」と言われて気づいた人生の物語のシナリオをハッピーエンドにすること |
| 2.現状確認 | 後悔に基づいて現状を冷静に確認します | 自分はどう思おうとも世間の自分に対する評価は「武器商人」「死の商人」である |
| 3.将来を反実仮想する | 現実にはない過去もしくは将来の姿を想像します。 | 将来、社会に貢献した素晴らしい人物として記憶され、賞賛されたい |
| 4.因果関係を考える | 過去、将来に対して行った反実仮想と現状にギャップがある原因は何であるか? 解決策を見つけるために原因の究明が必要です。 | ・軍需産業が事業の中心であることだが、それをやめるわけにはいかない。 ・軍需産業以外で社会に貢献する何かをする必要がある。 |
| 5.解決策を考える | 因果関係から見えてきた原因を解決する解決策を考えます、 | ・軍需産業以外で社会に貢献する方法は何か? ☞ ノーベル賞の創設 平和賞を含めて4つの分野で世界的に貢献した人物を表彰して賞金を与えよう ☞ 全財産をノーベル財団に遺贈した基金で賞金と運営費用を賄おう |
| 6.予期的後悔をする | 後悔先に立たずと言うのは間違いです。後悔は予め予期することができます。 アイデアを思いつくのはさほど難しいことではありません。問題は解決策が困難なものであるほど、実際にそれを実現することができるか否かです。そこで、解決策を実行しなかった場合に、将来後悔するかどうかを予め想像してみるのです。これを予期的後悔と言います。 | 死ぬ間際に、思いついたノーベル賞を実現していなかったら、自分は実現しなかったことを後悔することだろう。 |
| 7.コスト試算をする | いくらよい解決策を思いついたとしても、必要な費用と手間を実際に賄うことができなければ解決策を実現することはできません。その条件がクリアできない解決策は見直す必要があります。 | 1.費用 生前ではなく、死後に財産を遺贈することによって、生前は一切費用がかからない。 2.手間 自分が生きている間にノーベル賞の仕組みを創ることは、時間的にも手間としても不可能なので、その手間は遺言を残すことによって遺言執行人に任せることにする |
| 8.選択をする | 以上の1~7までのプロセスを踏んだ上で、最終の選択です。 選択肢は常に2者択一です。 | 遺言を書いて、自分の死後に遺言執行人にノーベル賞を実現してもらおう。 |
ノーベルの選択を8つの合理的意思決定プロセスに沿って解釈しました。
自分の人生の課題を当てはめて一度試してみてください。
後悔は人生を好転させるバネである

後悔を起点にノーベルは、合理的な意思決定プロセスを通じて自分の物語のシナリオを再設計したと言えます。
自分の名を現状の「死の商人」から「平和」と「希望」の象徴として記憶される状態を反実仮想しました。
中途半端な後悔では効果がありません。ノーベルはちゃんと後悔したのです。
【後悔と合理的な意思決定プロセスとの関係】
1.後悔は注意を集中すべきフレームを導き出します。
2.後悔は現状を冷静に分析させます。
3.後悔は、 “if ~ then……”「もし、~したら、……のようになったであろうか?」という現状にはない世界を仮想する(反実仮想)きっかけとなります・
4.後悔は現状の原因を追求するきっかけとなります。
5.後悔は現状の問題の解決策の検討を促します。
6.後悔は過去のことだけではなく、将来の後悔を予期させます(予期的後悔)
7.後悔は解決策の実現性を高めるためにコストと手間を考えさせます。
8.後悔は解決策をやるかやらないかの選択を促します。
後悔は人生を好転させるバネとして上手に活用すべき感情だと言えます。
反実仮想と後悔、予期的後悔の関係
直観で判断するのは無意識かつ瞬間であるのに対して、意識を使った合理的な意思決定プロセスを進めるのは面倒であり、脳に大きな負荷が掛かります。その面倒で負荷の大きいプロセスを後押しをするのが、後悔と予期的後悔なのです。
後悔は感情です。
感情が怠け者の意識にちゃんと検討するように仕向けます。
そのためには過去のことについても将来のことについてもちゃんと反実仮想する必要があるのです。
反実仮想の程度が感情を動かし、動いた感情が意識を動かすのです。
後悔をちゃんとしないと怠け者の脳は直観に逃避してしまいます。
今目の前にないことを想像することができるのは人間だけです。今目の前にないことを想起する反実仮想の力を活かしましょう
。
【常に反実仮想をする子どもと反実仮想を忘れた大人】

子どもの頃のおままごと……
お人形を座らせていますが、女の子はそれを人間の家族に見立てて食事をする反実仮想をしています。
男の子が持っているのはただの棒きれですが、それを鉄砲や刀のつもりで戦争ごっこやチャンバラごっこを反実仮想して遊んでいました。
大人になるとなんでも知っているような気がして反実仮想をすることをいつの間にか忘れていないでしょうか?
後悔しない、ハッピーエンドの物語にするために必要な要件
後悔しない、ハッピーエンドの物語のシナリオ創りに必要なのは次の2点です。
要件 1️⃣ 合理的な意思決定プロセスを使うことができること
要件 2️⃣ 後悔を回避するために、漏れなく検討すべきリスク(フレーム)を知っていること
合理的な意思決定プロセスにおいて反実仮想と予期的後悔が中核的な位置をしめることを理解していただいたと思いますが、反実仮想と予期的後悔を基幹とした合理的な意思決定プロセスは一種の方程式です。
そこで残された問題は検討するフレームとして代入する ”x” です。
当然のことですが、リスクとしてのフレーム “x” がわからなければ解決策は出てきません。
一次方程式をメタファーとすれば、
y=ax+b
解決策 = 反実仮想 × リスク(フレーム) + 予期的後悔
なのです。
反実仮想の仕方によってリスク(フレーム)は大きくも小さくも見えます。その結果を予期的後悔することで備えるべきリスクであるのか、備える必要がないのかの判断がつくのです。
将来後悔することになるかもしれないプレーム”x”が認識できていれば合理的な意思決定プロセスにて判断をすることができますが、認識せざる”x” があった場合は後悔のタネを見落とすことになります。
賢明な人であっても知らないリスクに備えることはできないのです!
ノーベルの選択を“自分ごと”にする

ノーベルは、「死の商人」と言われたことから、自分がハッピーエンドになる物語のシナリオを用意していないことに気づきました。
ケガの功名とも言えますが、彼が後悔したのは「武器商人」とか「死の商人」と新聞に書かれたことではなく、彼の人生の物語がハッピーエンドになるシナリオがないことに気づいたことだったのです。
その後悔をバネとして作成された彼のシナリオは彼の死後、財産の大半を遺贈してノーベル賞を創ることでした。その遺言の内容は当時の人々を驚かせました。
それだけでも彼の物語はハッピーエンドだったのです。
しかし、彼のシナリオは遺言執行人らの努力の結果実現されました。
彼の命日の12月10日に毎年ノーベル賞の授賞式が挙行され、受賞者だけでなく全世界の人々が彼に感謝しているのです。
見事すぎるハッピーエンドの物語だと思いませんか?
一方、私たちのノーベル賞は何でしょうか?
もちろん誰かを表彰してお金をあげることではありません。
自分の物語をハッピーエンドにするシナリオが、私たちとその家族、仲間のノーベル賞ではないでしょうか?
後悔を上手に活用しましょう。
あなたと家族の物語をハッピーエンドにするシナリオ作りを応援します。
後悔を回避するために、漏れなく検討すべきリスク(フレーム)を提供します。
自分が人生の物語をハッピーエンドにするために検討するリスク(フレーム)を漏れなく知っている自信がない場合はHappy Ending カードをプレイしてみてください。











