冬のある日
キリギリスは食べ物を分けてもらおうと、アリの家を訪ねました。
けれど、扉の向こうにいたのは、元気に働くアリの姿ではありませんでした。
ベッドに横たわり、動けないアリの姿でした。

「アリさん、どうしたんだい?」
驚いて尋ねるキリギリスに、アリは弱々しく答えます。
「ああ、キリギリスさんか……もう、私はもうそんなに長くはなさそうだ………」
しばし沈黙のあと、キリギリスはおそるおそる問いかけました。
「働き過ぎじゃなかったのかい?」
アリは目を閉じ、かすかに笑みを浮かべます。
「ああ、そうかもしれない……
皮肉なことに余命を悟った今になって、ようやく気づいたんだ。
本当は、もっと色々やってみたいことがあったってね………」

キリギリスは首をかしげ、さらに尋ねました。
「じゃあ、どうしてこれまでやってみたいことに着手しなかったんだい?」
アリはしばらく沈黙し、深く息を吐いて答えました。
「働くことで精一杯だったんだよ。
出世のため、生活のため、子どもの学費の支払いのため……
自分がやりたいことよりも、他人から指示された仕事を優先するばかりだった。
その結果、家庭を顧みることができなかった。
妻は離れていき、子どもも妻と一緒に出て行ってしまったんだ。
本当は子どもに見送られて最期を迎えたかったが、それも叶いそうにない……」
アリは静かに続けます。
「だから君に託したい。
この家も、食料も、全部君にあげよう。

その代わりに、私が死んだら、
土に埋めて、小さな墓標を立ててほしい。
そうしてくれたら、これから安心して目を閉じることができる。」

するとアリは、さらに問いかけます。
「君はまだ生きられるだろう。
一体、何をしたいと思っているんだい?」
キリギリスはたじろぎました。
「……わからない。今まで気ままに生きてきたけれど、
そのように問われても、何が生き甲斐なのかハッキリと答えられないんだ。」
アリは薄く笑い、静かな声で言いました。
「まだ、生きる甲斐はあるだろう!
私の分も、生きてくれ………」
その言葉を最後に、アリは息を引き取りました。
残されたキリギリスは、雪の降る窓の外を見つめながら、
小さくつぶやきました。
「生き甲斐って、なんだろう……
自分の最期は?アリさんと同じような……
どうすれば、後悔のない生き方ができるんだろう………
でも、アリさんのお陰で暖かい家もあるし、食料も充分だ!
このチャンスを活かさなければ……」

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