行動心理学

定年後(老後)のことを考える余裕がないのはなぜ? ― 心理的な「トンネリング」と人生の優先順位

あなたは自分が「心のトンネル」の中にいることに気づいたことがあるでしょうか?

トンネルを掘ると、険しい山道を上り下りをすることなく真っ直ぐクルマや電車で走ることができます。トンネルを使うと、早く楽に山越えをすることができますが、その代わり、外の景色は全く見ることができません。

トンネルに入ってできることは、ひたすら真っ暗なトンネル内を走ることだけです。

トンネルを通って早く山越えをするのと、外の景色を楽しむことはトレードオフ(交換)の関係にあるのです。

あなたは、自分が「心のトンネル」の中にいることに気づいたことがありますか?
「心のトンネル」を走っていると、早く目的を達成ことができますが、そのトレードオフとして失うものは何でしょうか?

「心のトンネル」、即ち行動心理学におけるトンネリングについて知っておきませんか。

「定年後(老後)のことは、仕事や育児が落ち着いたら考えよう」

そう思っているうちに、今日も一日が終わっていませんか。

目の前のことに一生懸命になるのは、大切なことです。ただ、その集中によって、少し先の人生にある大切なことが見えにくくなることがあります。それが、トンネリングです。

難しいのは、自分では視野が狭くなっていることに気づきにくいこと。「今は考える必要がない」と思っていることの中にも、今から少しずつ育てておきたいものがあるかもしれません。

定年後(老後)も
✅ つながっていたい人
✅ 続けたい活動
✅ 健康でいるための習慣
✅ 仕事を離れた後にも感じられる、自分の役割や生きがい。

「定年後のことは、仕事や育児が落ち着いたら考えよう」
それがしばらく続くと、人生において大事なテーマに気づかずに、定年を迎えることになります。

これが、トンネリングのリスクです。

消防士ブライアン・ハントンの最後の出動

テキサス州アマリロ市の消防士だったブライアン・ハントンが死んだのは火災現場ではありませんでした。ハントンはその現場に到着すらしなかったのです……

彼が死んだのは、火災現場に急行する途中の交差点でした。乗っていた消防車がその交差点を猛スピードで曲がる際に、その遠心力で消防車から転落してしまい、縁石に頭をぶつけた結果死亡したのです。

なぜ、消防車から転落したかと言えば、彼がシートベルトをしていなかったためです。
シートベルトさえしていれば、彼は死なずにすんだはずです。

なぜ、子どもでもするようなシートベルトをハントンはしなかったのでしょうか?
彼はトンネリングしていたのです……

消防士は、出動指令を受け、急いで必要な装備を身に付け、消防車に乗り込みます。そして、消防車は一刻を争って現場に急行し、消防士達はその車中で消防作業の作戦を検討するのです。

✅ 車載コンピューターのディスプレイを使って、燃えている建物の構造と配置を調べる。✅ 進入と脱出の作戦を決める。
✅ 必要なホースの量を計算する。

これら全てを現場に到着するまでの短時間に行わなくてはならないのです。

出典「いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動心理学」センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール著 

米国の消防士の交通事故死

米国における消防士の死亡者の20%から25%を自動車の衝突事故が占めている(1984年から2000年)。そして、その自動車死亡事故のうち79%で消防士はシートベルトを着用していなかった。

☞ 消防士に限らず人間は常に時間の不足にさらされています。

トンネリングとは?

電車の乗り遅れないためにトンネリングする

寝坊してしまいました。会社に遅刻することはできません。
あわてて自宅を飛び出して、駅に向かって走ります。電車に乗り遅れないように走っている間に、何を考えるでしょうか?

頭の中には、いかにして電車の発車時刻に間に合うかという1点に集中しています。

・どの道を通って駅に向かおうか?

・歩道上で行く手を塞ぐ子どもたちをどのように追い越そうか?

・駅前の交差点の信号はいつ青になるだろうか?

・歩道の縁石に躓かないように走ろう……

・駅のエレベーターに乗った方がよいか、それとも階段を駆け上った方が早いか……

・改札を素早く通過するためにタッチするiPhoneをいつ取り出して、ロックを解除しておこう……等々

このように、電車に間に合うという行動に集中することで、電車に間に合うかわりにその他のことは何も考えることができません。
これがトンネリングです。トンネルの内部のことしか視野に入らず、トンネルの外にあることに全く関心を持たない状態です。

例えば、駅に行く途中で高校の時の恩師にすれ違ったとしても、そのことに気づかないか、気づいたとしても挨拶すらしない、あるいはできないのです。

トンネリングは緊急の課題があるときに生じがちです。
時間が充分にあるのであれば、なにも急ぐ必要はありません。
急ぐ理由は時間が不足しているからです。

トンネリングは視野狭窄です。
時間が不足すると、トンネル内にある緊急の問題を解決するために集中が必要となります。

時間の欠乏 → 集中 → トンネリング

☞ 集中は視野狭窄、トンネリングを生じさせます。

集中の効果とデメリット

火事場の馬鹿力と言いますが、集中は持てる資源を1点に使うために、大きな力を発揮します。しかし、それを裏返すと、集中はその集中する対象以外のコトをすべて無視するからこそできることなのです。

・受験勉強に集中する受験生

・仕事に集中するビジネスマン

・セックスに集中する男女

・子どもに集中する母親

集中の対象に生じる効果はよいとして、トンネルの外にあることを全く無視してかまわないのでしょうか。集中はそのトレードオフ(交換)として、集中しているコト以外を無視する、放ったらかしにしてしまうからです。

ハントンは火災現場における消火活動のための準備に集中したためにシートベルトを掛けることを忘れたかもしれませんが、シートベルトをする時間を要したとしても、消火活動にはなんら影響はなかったでしょう。

時間の欠乏 → 集中 → トンネリング → 他のことを無視する、ほったらかしにする

☞ トンネリングのデメリットは、トンネル外にあるコトに関心を失い、無視してしまうことです。

優先順位の判断

人間は意識的なことを同時に行うことはできません。
何かが先で、何かが後なのです。

時間には限りがあって、したいことが複数ある場合には、何から先に着手するかを決める必要があります。それが優先順位です。

優先順位とは着手の順番です。

優先順位は緊急性と重要性のマトリクスで判断します。

時間が不足することから強制される集中が起こりがちなのは緊急性が高い第1領域と第3領域です。

人間は緊急性の高いことに優先順位を置きがちですが、それは正しい選択とは言えません。「7つの習慣」でスティーブン・コヴィーは第二の法則として、緊急ではないが重要性が高い第2領域を優先せよと書いています。

トンネリングのリスクは、トンネルの内側にあるテーマだけを見て優先順位を判断してしまうことです。しかも、その時に自分がトンネリングしていることに気づかないのです。

ハントンはシートベルトをすることに何を優先させたのでしょうか?

その判断をすることなく、命を救うシートベルトを装着するという重要性が高い行為をしなかったために命を落としてしまいました。

☞ 優先順位の判断の機会を奪うのがトンネリングのリスクです。

優先順位の高いコトから着手する

トンネリングして行うテーマは緊急度は高いながらも重要度が低いことが少なくありません。重要度の低いテーマに先に着手してしまうと、その後に重要なテーマをする時間に不足を来しかねません。

緊急度の高いコトが発生した場合に、それが、第2領域にある緊急度は低いながらも重要度が高いコトとどちらを先に着手するのかを判断するのが優先順位付けです。

だから、そもそも、自分の人生にとって、大事な第二領域に属するテーマが何であるかを決めておかなければ、優先順位の付けようがないのです。

トンネリングする前に、常に自分の人生にとって、重要度が高い大事なことを見える化しておく必要があります。

あなたは自分が本当にしたいことをいくつ書き出すことができるでしょうか?

コヴィーの言う緊急ではないけれども、自分の人生にとって重要な第二領域のテーマを見える化する方法があったら知りたいですか?

自分の人生にとって重要度の高いテーマを見える化する

優先順位をマトリクスで判定しようとすれば、まずは、第2領域の自分の人生に大事なこととして、予めテーマを見える化しておく必要があります。

緊急に発生したコトがあった場合に、見える化した大事なテーマと比較考量して、どちらを優先するのかを判断することができる状態にしておくのです。

では、どうしたら、自分の人生にとって大事なテーマをトンネリングする前に、見える化することができるのか?

その選択肢のひとつがLIFEデザインワークです。

LIFEデザインワーク(LDW)は、カードを手がかりに、普段は考える機会の少ない人生のテーマに目を向けるためのワークです。

人生全体を見渡すことで、今は後回しになっているけれど、自分にとって大切なことが見えてくるかもしれません。そして、それを育てるために、何から始め、どこに時間とお金を使うかを考えられるようになります。

将来のために今できることは、忙しさが落ち着くのを待つことだけではありません。まず、自分の人生で大切にしたいことを見つける時間をつくってみませんか。