A.前向きの人生

シリーズ絵本「アリとキリギリス ー 晩年の再会」

キリギリスは雪の降る冬にアリの家に食べ物を施してもらいに行きましたが、アリからは、雪の中で踊っていろ!と言われて断られてしまいました。
その後ふたりは歳を取った晩年に再会することになるのです。
ふたりはどのような会話をすると思いますか?

アリとキリギリス、晩年の再会

再会の朝

晩秋のある朝、アリは仕事に行く途中で、ひとりの年老いた男と出会った。
顔をよく見ると、それは若き日に一度だけ話を交わしたことのある、あのキリギリスだった。

「やあ、アリ君じゃないか?あのときは随分と怒らせてしまったかな」
キリギリスは、変わらぬ笑顔でそう言った。
あの頃のように、肩からボロボロのバイオリンケースを提げている。

アリは驚きながらも、
「……いや、驚いただけさ。あんたにまた会うなんて」

「ふふ、歳を取れば歩く速度が同じになるものさ。まるで人生が帳尻を合わせてくれるみたいにね」

不思議な懐かしさにアリはキリギリスを家に招いた。

アリの誇りと戸惑い

「私はね、あれからずっと働いてきたんだ。倉庫を建てて、仲間をまとめて、冬に備えて蓄える日々だった」
アリは言う。背筋はまだまっすぐだったが、目の奥にはかすかな疲れが見える。

「周りからは立派な仕事をしていると褒められてきた。
だけど……ある日ふと思ったんだ。
私はいつ、自分のしたいことをしただろうか?ってね……」

キリギリスは黙ってうなずいた。

キリギリスの沈黙と微笑

「僕はさ、あの冬あんたの家に行った日から旅に出たんだ。北の森や南の港を渡って、人々の宴で演奏して……気づいたら歳を取ってた」

キリギリスは膝に置いたバイオリンに目をやる。
「備えなんて、何ひとつなかったよ。冬の日に風邪をひいて、熱にうなされた夜には、あのとき君に言われた“備え”という言葉を何度も思い出したよ」

「それで、後悔したのか?」
アリが尋ねると、キリギリスはふっと笑った。

「いや、不思議だけど……そうでもなかった。
ただね、私の演奏を聞いてくれた人の中に、涙を流す者がいた。笑う者もいた。それが、僕が生きた意味だったんじゃないかと思えるんだ……」

自分への問い

「なあアリ君。君はもし、もう一度最初からやり直せるとしたら……また同じ道を選ぶかい?」

アリはしばらく空を見つめていた。風が落ち葉を巻き上げ、冷たい川の水音が小さく聞こえる。
「……いや、きっとまた働くだろうな。仲間を守る責任もあったし、後悔はしていないつもりだ……」

そう言ったあと、アリは一呼吸置いて、ふと呟いた。
「けれど……順番を間違えていたかもしれないと思う時もあるんだ。
何のために生きるのか?
もう少し早いうちに気づいていたら、もう少し違う道を歩こともできたかもしれないなと……」

キリギリスは何も言わずにうなずいた。

アリはそっと立ち上がり、背中を伸ばすとこう言った。
「今からでも遅くはないかもしれない。これからでも、考えてみるよ。何のために生きるか?ってことを」

アリの「将来」とキリギリスの「今」
本当に必要なのは、どちらかではなく、「何のために生きるのか」を見つけたその先にある選択ではないでしょうか?

何のために生きるかのヒントはHappy Ending カードから