A.前向きの人生

シリーズ絵本「アリとキリギリス ー キリギリスの生き甲斐」

冬の寒い夜、食べ物を求めてキリギリスがアリの家を訪れました。

「アリさん、腹ぺこなんだ!食べ物を少し分けてもらえないだろうか……」

アリは眉をひそめて言いました。
「夏に歌っていたのなら、冬には踊ったらいいんじゃないか!」

しかし、キリギリスの哀れな姿を見て、すこしかわいそうになったアリは
「食べ物はただではあげられない……お金はあるの?」

キリギリスは胸を張って言いました。
「一文無しなんだけど、その代わりに私は歌ったり、バイオリンを弾くことができるよ!」

「音楽じゃ食べられないだろう?」アリは首を振りました。

その時、仲間のアリたちが集まってきて言いました。
「今日はみんなでパーティだ!」

アリはしょげているキリギリスを見て、ふと思いつきました。
「そうだ、今日のパーティでアリの仲間の前でバイオリンを弾いてみないか?」

キリギリスは弓を取り、心を込めて演奏しました。
澄んだ音色が響き渡ると、アリたちは大喜び。
「すごい!こんなに美しいバイオリンは初めてだ」

アリは不思議そうに問いかけました。
「どうしてそんなにうまく弾けるんだ?」

キリギリスはにっこり笑って答えました。
「夏の間中、毎日欠かさず練習していたんだ。遊んでいたように見えたかもしれないが、他のキリギリスたちよりは真剣に練習していたものだよ。」

アリさんは言いました。
「キリギリスさん 私は夏の間、あなたが遊んでいるとばかり思っていたのだけど、
遊びじゃなくてバイオリンの練習だったのですね?」

「そう思ってもらえれば、うれしいですね。
音楽は私の生き甲斐ですから!」

「そうか、生き甲斐か……」アリさんは妙に納得してしまいました。

その夜、アリは喜んでキリギリスに演奏料として食べ物を提供しました。


やがてキリギリスはアリの家で定期的に演奏会を開き、食料を対価にアリたちを楽しませるようになります。

こうして、アリは働き、キリギリスは音楽でアリたちの心を潤しました。

このようにして、キリギリスは生き甲斐としてきたバイオリンの力で寒い冬を乗り越えることができたのです。

続編:キリギリス、レコードを遺す

冬の夜ごとにアリの家で開かれる演奏会は、すっかり恒例になっていました。
キリギリスのバイオリンの音色は、アリたちの心を癒し、仲間をひとつにしました。

ある日、年長のアリが言いました。
「この素晴らしい演奏を、冬の夜だけで終わらせるのはもったいない。子や孫にも聴かせたいものだ」

そこでアリたちは、キリギリスの演奏を記録することを思いつきます。
「レコードに遺そう!」

キリギリスは少し恥ずかしそうに笑いながらも、心を込めて演奏しました。
弦の響きは回転盤に刻まれ、その音色は未来へと託されました。

やがて季節が巡り、キリギリスが死んだ後も、アリたちはレコードを再生し続けました。
「この音を聴くと、あの冬の夜がよみがえる」
「キリギリスさんの生き甲斐の音だよ……」

子や孫たちの耳にも、キリギリスの音楽は生き続けたのです。