行動心理学

トンネリングするリスク

あなたは自分が「心のトンネル」の中にいることに気づいたことがあるでしょうか?

実際のトンネルは険しい山道を上り下りをすることなく真っ直ぐクルマや電車で走ることができます。トンネルを使うと、早く楽に山越えをすることができますが、その代わり、トンネルに入ると、トンネルに入る前に見えていた外の景色は全く見ることができません。

トンネルに入ってできることは、ひたすらトンネル内を走ることだけです。

トンネルを通って早く山越えをするのと、外の景色を楽しむことはトレードオフ(交換)の関係にあると言えます。

あなたは「心のトンネル」の中にいることに気づいたことがありますか?「心のトンネル」の中にいることに気づかずに、トンネルの外を無視して生活していると、どのようなリスクがあるでしょうか?

「心のトンネル」、即ち行動心理学におけるトンネリングについて知りたい人は続きをご覧ください。

消防士ブライアン・ハントンの最後の出動

出典「いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動心理学」センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール著 

米国の消防士の交通事故死

米国における消防士の死亡者の20%から25%を自動車の衝突事故が占めている(1984年から2000年)。そして、その自動車死亡事故のうち79%で消防士はシートベルトを着用していなかった。

テキサス州アマリロ市の消防士だったブライアン・ハントンが死んだのは火事を消火する火災現場ではありませんでした。ハントンはその現場に到着すらしなかったのです……

彼が死んだのは、火災現場に急行する途中の交差点でした。乗っていた消防車がその交差点を猛スピードで曲がる際に、その遠心力で消防車から転落してしまい、縁石に頭をぶつけた結果死亡したのです。

なぜ、消防車から転落したかと言えば、彼がシートベルトをしていなかったためです。
シートベルトさえしていれば、彼は死なずにすんだはずです。

なぜ、子どもでもするようなシートベルトをハントンはしなかったのでしょうか?彼はトンネリングしていたのです……

消防士は、出動指令を受け、急いで必要な装備を身に付け、消防車に乗り込みます。そして、消防車は一刻を争って現場に急行し、消防士達はその車中で消防作業の作戦を検討するのです。

☞ 消防士に限らず人間は常に時間の不足にさらされています。

トンネリングとは?

電車の乗り遅れないためにトンネリングする

寝坊してしまいました。会社に遅刻することはできません。
あわてて自宅を飛び出して、駅に向かって走ります。電車に乗り遅れないように走っている間に、何を考えるでしょうか?

頭の中には、いかにして電車の発車時刻に間に合うかという1点に集中しています。

・どの道を通って駅に向かおうか?

・歩道上で行く手を塞ぐ子どもたちをどのように追い越そうか?

・駅前の交差点の信号はいつ青になるだろうか?

・歩道の縁石に躓かないように走ろう……

・駅のエレベーターに乗った方がよいか、それとも階段を駆け上った方が早いか……

・改札を素早く通過するためにタッチするiPhoneをいつ取り出して、ロックを解除しておこう……等々

このように、電車に間に合うという行動に集中することで、電車に間に合うかわりにその他のことは何も考えることができません。
これがトンネリングです。トンネルの内部のことしか視野に入らず、トンネルの外にあることに全く関心を持たない状態です。

例えば、駅に行く途中で高校の時の恩師にすれ違ったとしても、そのことに気づかないか、気づいたとしても挨拶すらしない、あるいはできないのです。

トンネリングは緊急の課題があるときに生じがちです。
時間が充分にあるのであれば、なにも急ぐ必要はありません。
急ぐ理由は時間が不足しているからです。

トンネリングは視野狭窄です。
時間が不足すると、トンネル内にある緊急の問題を解決するために集中が必要となります。

時間の欠乏 → 集中 → トンネリング

☞ 集中は視野狭窄、トンネリングを生じさせます。

集中の効果とデメリット

火事場の馬鹿力と言いますが、集中は持てる資源を1点に使うために、大きな力を発揮します。しかし、それを裏返すと、集中はその集中する対象以外のコトをすべて無視するからこそできることなのです。

・受験勉強に集中する受験生

・仕事に集中するビジネスマン

・セックスに集中する男女

・子どもに集中する母親

集中の対象に生じる効果はよいとして、トンネルの外にあることを全く無視してかまわないのでしょうか。集中はそのトレードオフ(交換)として、集中しているコト以外を無視する、放ったらかしにしてしまうからです。

ハントンは火災現場における消火活動のための準備に集中したためにシートベルトを掛けることを忘れたかもしれませんが、シートベルトをする時間を要したとしても、消火活動にはなんら影響はなかったでしょう。

時間の欠乏 → 集中 → トンネリング → 他のことを無視する、ほったらかしにする

☞ トンネリングのデメリットは、トンネル外にあるコトに関心を失い、無視してしまうことです。

優先順位の判断

人間は意識的なことを同時に行うことはできません。
何かが先で、何かが後なのです。

時間には限りがあって、したいことが複数ある場合には、何から先に着手するかを決める必要があります。それが優先順位です。

優先順位は緊急性と重要性のマトリクスで判断します。

時間が不足することから強制される集中が起こりがちなのは緊急性が高い第1領域と第3領域です。

人間は緊急性の高いことに優先順位を置きがちですが、それは正しい選択とは言えません。「7つの習慣」でスティーブン・コヴィーは第二の法則として、緊急ではないが重要性が高い第2領域を優先せよと書いています。

トンネリングして行おうとしているコトが重要性が高く、優先順位が一番であると判断していることであればなんら問題がありません。問題は優先順位の判断を今見えているトンネルの内側にあるコトだけではなく、今見えていない外にあることを含めてしたのか否かなのです。

ハントンはシートベルトをすることに何を優先させたのでしょうか?

その判断をすることなく、命を救うシートベルトを装着するという重要性が高い行為をしなかったために命を落としてしまいました。

☞ 優先順位の判断の機会を奪うのがトンネリングのリスクです。

優先順位の高いコトから着手する

トンネリングして行うコトは緊急度は高いながらも重要度が低いことが少なくありません。

重要度の低いコトに先に着手してしまうと、その後に重要なコトをする時間に不足を来しかねません。

常に第2領域を意識しながら、優先順位をマトリクスで判断して着手の順番を決めましょう。
優先順位の高いコトとは自分にしかできない重要度の高いコトです。

重要度の高い目標をHappy Ending カードで捜す

緊急度の高いコトが発生した場合に、必要なのは、それが、第2領域にある緊急度は低いながらも重要度が高いコトとどちらを先に着手するのかを判断することです。

第2領域にあるコトを意識しなければ、常に重要度が低いにもかかわらず、緊急度が高いコトに時間を費消してしまいます。

従って、優先順位をマトリクスで判定しようとすれば、まずは、第2領域のこととして、自分がこれからしたいコトをリストアップしておく必要がありますが、あなたは自分が本当にしたいことをいくつ書き出すことができるでしょうか?

そのように聞く理由は、もしかしたら、すでにあなたはトンネルの中にいて、トンネルの外にある第2領域のコトを知らないかもしれないからです。

賢明な人でも知らないコトを欲しがることはできません。

トンネリングは無意識で入り込んでしまうので、自分がトンネリングしている事に気付きません。「心のトンネル」の外を見るには仕掛けが必要です。

Happy Ending カードをプレイするとカードを通してトンネルの中も外もすべて見ることができます。Happy Ending カードであなたの人生における第2領域の課題をすべてリストアップした上で優先順位を決める習慣を身に付けたらいかがでしょうか。

そうすれば、常に自分がトンネリングをしていることを意識することができるようになります。

要約すると

・トンネリングは集中というメリットとトンネル外のことを無視するデメリットを生じさせる
・トンネリングは時間の不足から生じる
・トンネリングは優先順位の判断を奪ってしまい、重要度が低く、緊急度が低いことから着手させてしまう。
・トンネリングを意識するためには、優先順位のマトリクスの第2領域(重要度が高く、緊急度が低い)コトを意識して、着手の順番を判断する必要がある
・Happy Ending カードは自分の人生における第2領域のコトを見つめるきっかけとなる