WHY? 何のためのHappy ending !!

自分の死後(死後事務委任)を考える楽しみ 「マディソン郡の橋」から

フランチェスカ・ジョンソンは1989年1月に死んだ。69歳だった。この年には、ロバート・キンケードは76歳になっていた計算になる。死因は自然死とされた。「彼女はただ死んだんです」と、医師はマイケルとキャロリンに言った。「実は、ちょっと困惑してるんですよ。これといってはっきりした死因がないんです。台所のテーブルに突っ伏しているの、近所の人が発見したんですがね」

「マディソン郡の橋」文藝春秋

「マディソン郡の橋」は5千万部の大ベストセラー。
クリント・イーストウッドとメリル・ストリープが主演した映画「マディソン郡の橋」は興業収入1億8千2百万ドルを上げたことからも、多くの人がこのストーリーに共感しているのでしょう。

死後事務委任だなんて……?

自分が死んだあとの始末は自分ではできないことは誰にもわかっていますが、誰にどのようにやってもらうかをすでに考えて決めている人はほとんどいません。
なぜならば、まだ死ぬつもりがないからです……

「マディソン郡の橋」は主人公のふたりの「死後事務委任」が繫いだストーリーであることを知っていましたか?ふたりを繫いだ「死後事務委任」の役割と効果を紐解いてみましょう。

死は免れることができず、
死んだ自分の始末は自分ではできず、
誰かに始末してもらう他はない……

これは否定のしようがない事実です。
しかも、死はいつやって来るかわからない……

「マディソン郡の橋」のフランチェスカとロバートは、予め死後事務を弁護士に委任していました。その結果、二人の関係は繰り返し繰り返し語られる永遠の物語となりました。

フランチェスカとロバートは「死後事務」に息を吹き込んで、生前に準備している最中に自分が楽しむとともに、死後に遺された人にも楽しんでもらうものとして物語を創り上げたのです。

「マディソン郡の橋」あらすじ

このblogは「マディソン郡の橋」のストーリーを追うことはしませんが、粗々こんな情景でした。興味のある人は小説を読むか映画を見てください。

米国アイオワ州マディソン郡に住んでいた農家の主婦であるフランチェスカとナショナルジオグラフィック誌の取材で屋根の付いた橋の撮影にやってきた(1965年8月16日月曜日)写真家ロバートとの4日間にわたる愛(不倫情事?)の物語です。その4日間はフランチェスカの夫と息子、娘は牛の品評会に出かけて不在でした。4日間の情事の後、家族が帰宅する前にふたりは別れることになります。

ロバートの死後にフランチェスカは亡き恋人の遺品を受け取ります。ロバートは死後、火葬にされ、二人の思い出の場所であった屋根付橋であるローズマンブリッジで散骨されていました。

フランチェスカも、手紙と3冊のノートに書き留めた4日間の想い出とともに、死後、火葬にして灰をローズマンブリッジ撒いてほしいという遺言を残して亡くなり、それをふたりの子どもに託します。

フランチェスカとロバートの死後事務委任の内容

(米国と日本では法制度が異なるため、小説から大くくりに解釈をしていきます。)
それぞれ弁護士に死後事務を委任したふたりは以下の様な環境下にありました。

・ロバート(54歳時)は離婚して子どもがいないおひとりさま
・フランチェスカ(65歳時)は夫に先立たれたものの、息子と娘がいた。

もうひとつ、死後事務を委任した歳をみてどう思いますか?

ロバートが死後事務で弁護士に託してフランチェスカに残したもの

「親愛なるフランチェスカ
この手紙が無事あなたに届くように祈っています。あなたがこれを受け取るのがいつになるか分かりません。いずれにせよ私が死んだ後になるはずです。……」1978年8月16日

<タイムライン>
弁護士への死後事務委任契約作成(1967年7月8日)
フランチェスカへの手紙作成(1978年8月16日)
ロバート死亡(1982年1月)
遺品がフランチェスカに届く(1982年2月2日)

<死後事務委任契約の内容>
1.遺品をフランチェスカに届けること
・フランチェスカと刻まれたメダル
・銀のブレスレット
・ローズマンブリッジに貼られたフランチェスカからロバートへの手紙
・カメラ(Nikon)
・フランチェスカへの手紙(1978年8月16日)
2.遺体は火葬すること
3.墓は不要。マディソン郡のローズマンブリッジにて散骨すること

フランチェスカが死後事務で弁護士に託して子どもたちに残したもの

「親愛なるキャロリンとマイケル
私は今とても元気ですが、そろそろ、(世間で言われるように)身辺整理しておくべき時期ではないかと思います。実は、あなた方に知ってほしいことが、とても大切なことがあるのです。私がこれを書いているのはそのためです。……」1987年1月7日

<タイムライン>
夫リチャード死亡(1979年)
弁護士への手紙(1982年)
子キャロリンとマイケルへの手紙(1987年1月7日)
死亡(1989年1月)

<死後事務委任契約の内容>
◇貸金庫の中身を子どもに引き渡すこと
・ロバートの手紙(1965年)
・ロバートの法律事務所からの手紙(1982年)
・ナショナルジオグラフィック誌の切り抜き
◇下記を子どもに伝えること
・遺体は火葬すること
・遺灰はローズマンブリッジにて散骨すること

<くるみの木箱(寝室に置かれた)に子どもに残したもの>
◇くるみの木の箱(フランチェスカが地元の大工に作らせた)・
・1通の手紙 キャロリンとマイケルへ
・Niconカメラ
3冊の皮装のノート(このノートがこの物語のすべて)

<その他>
・2つのグラスと2杯分のブランデー

 

もし、ふたりが弁護士に死後事務を委任していなかったら……

知っているつもりで、実はよくは知らないのが親しいはずの家族のことです。
生きている間には家族に話せないことがたくさんありますが、それを遺すことで、遺す側も遺される側もHappy になりました。
もし、ふたりが弁護士に死後事務を委任していなければ、ストーリーはどうなったでしょう。

◇ ロバート
・生前に遠慮していたフランチェスカとの再会を死後にも遂げられなかった。

◇ フランチェスカ
・ロバートの生死がわからないため、いつまでもロバートを探し続けた。
・ロバートの想い出となる遺品を受け取ることはできず、ロバートを思いだすきっかけを失った。
・ロバートがローズマンブリッジに散骨されたことを知らず、自分もローズマンブリッジにて散骨されたいと願い、散骨されてロバートと一緒に眠ることはなかった。

◇ キャロリンとマイケル
・くるみの箱の中身をよく吟味せずに、フランチェスカの遺した3冊の白皮のノートを見落として、フランチェスカのストーリーに気付かなかった。
・その結果、散骨をせずに、父リチャードの墓の隣に埋葬してしまった。

このように、死後事務委任をしておかなければ、「マディソン郡の橋」のエピソードはストーリーとして繋がることはなかったのです。

死後事務とは

自分が死んだ後に、人として片づけてしまいたいコト全般を死後事務と言っています。一般的に言われている主な死後事務は以下の通りですが、フランチェスカとロバートのストーリーからこのようなものは最低限のものに過ぎないことは既におわかりでしょう。

・親族・関係者への連絡事務
・病院や老人ホームからの遺体の引き取りから埋葬まで
・各種取引の停止と債務の弁済
・自宅の建物・家財等の整理
・行政官庁への諸届け

ひと昔前には子がある場合、死後事務委任契約などなくとも当然に子が行うべきものと考えられていました。「家」がやったのです。しかし、「家」がない場合、即ち、子と親しい親族がいない場合には第三者にしてもらわざるを得ません。
誰もやってくれる人がいない場合には、地方自治体が税金を使って行うことになります。

親族がいたとしても、死後事務の費用をどこから捻出するかが問題となります。

さらに、フランチェスカのように、子が2人いてもあえて子に任せずに第三者に費用を支払って委任するケースもあります。子が自分の意思通りに死後事務を遂行する可能性が低い場合は第三者を選択することになります。

さて、あなたは死後の始末をどのようにして欲しいか決めてますか?
やってくれる人を決めて委任していますか?
その費用は準備していますか?

死は間違いなくやってきて、しかも、それはいつのことかわかりません。
さらに、あなたが死んだ後では決められません。
フランチェスカとロバートがそのように言っていませんか……

遺言に書けばよいのでは?

死後事務委任契約ではなく、遺言に付言事項として書いておけばよいのではないかと思うかもしれません。信頼できる子がいる場合には、付言事項でも本人の意思通りにやってくれる場合もあるかもしれません。

しかし、遺言では法的に死後事務を託すことができません。なぜならば、遺言で決めることができるのは下記の項目に限定されており、死後事務はその中にないからです。第三者に託す場合には遺言とは別に死後事務委任契約が必要であることに注意が必要です。

<遺言で決められること>法律が記載されていない条文は民法
(相続)
・推定相続人の廃除と排除の取消(§893,894-2)
・祭祀主宰者の指定(§897-1)
・相続分の指定(§902)
・特別受益としない旨の意思表示(§903-3)
・遺産分割の方法の指定ならびに分割禁止(§908)
・遺産分割における担保責任(§914)
・包括遺贈および特定遺贈(§964)
・遺言執行者の指定(§1006−1)
・保険金の受取人の変更(保険法§44)
・信託の設定(信託法§3−2)

(相続外)
・認知(§781−2)
・未成年後見人の指定(§839−1)
・未成年後見監督人の指定(§848)

死後事務委任契約

死後事務委任についてもっと具体的に知りたい人は、こちらのウエビナーを「死後事務委任 頼れる家族がいないリスクに備える」(有料)ご覧ください。
死後事務委任のチェックシートを公正証書のひな形付きです。

◇ フランチェスカとロバートは死後事務を準備することによって残された人生を豊かにした。
◇ フランチェスカは死後事務によって遺したふたりの子を幸せにした。
◇ 死後事務でフランチェスカとロバートは永遠に繋がった。
◇ フランチェスカとロバートは間に合わせた。準備が早かった。
◇ ふたりともHappy Ending !! だった。

フランチェスカとロバートは”立つ鳥後を濁さず”どころではありませんでした。
「マディソン郡の橋」は小説ではありますが、人生は小説より奇なりです……
ローズマンブリッジはHappy Ending への架け橋であったようです。

獣であるネコやカラスでさえ、道端で行き倒れになっている姿を見ることはありません。獣は本能から死に場所を予め用意しているのでしょうか。

天国に上る途中で、浮き世に残る自分の亡骸と自分の死後の始末を誰がどのようにしているのか見ることができたとしたら、あなたがどう思うか想像してみてください。

人生100年時代に
Be Happy Ending !!