行動心理学

なぜ、自分がやると決めてもやらないのか?無意識と意識ーふたりの自分

健康な生活習慣を身に付けようと決意したにもかかわらず、できない人に!

健康的な生活習慣を身に付けたいと自分が決めたにもかかわらず、それに従わない自分がいることを不思議に思ったことはありませんか?

たとえば、

😫1日の接種カロリーを2000kcalに押さえようと思ったにもかかわらず、昼にはラードたっぷりのラーメンにチャーハンを食べてしまったり……

😫定期的に運動をしようとスポーツクラブに入会したにもかかわらず、理由をつけて度々サボった挙げ句、結果として退会してしまったり……

😫一日8時間睡眠を目指しているにもかかわらず、スマホゲームをやったり、Youtubeを朝方まで観てしまい、午後には睡魔に襲われているとか……

自分がやろうと決めたにもかかわらず、自分がそれをやらないことにもう慣れてしまっていませんか?

でも少し考えてみるとおかしい……
自分でやると決めたにもかかわらず、やらずにいる自分が……

その理由は、
あなたは自分がひとりだと思っているかもしれませんが、そうではないからです。

やろうと決めたのにもかかわらず、自分がやらない理由と、やると決めたらやり切るための対策に興味のある人は続きを読んでください。

長期的な大きな報酬より短期的な小さな報酬を選ぶ理由

私たちは常に短期的に得られる小さな報酬と長期的に得られる大きな報酬のどちらかを選択しています。

短期的に得られる小さな報酬の獲得を繰り返してしまうと、それは習慣化してしまいます。そして、後で失ったものの大きさに後悔することになりかねません。

わかりやすい例を挙げると、喫煙、大量飲酒、食べ過ぎ、ゲーム、Youtubeの視聴などです。

習慣化すると、それらに対する欲求が強くなり、習慣化を通り過ぎて中毒化してしまいます。

人間はこのように刹那的で小さな短期的な報酬に目を奪われがちです。

これらの短期的な報酬と引き換えに失われる主な長期的な報酬は健康です。

短期的な報酬と健康をトレードオフしていることになります。

健康は人生のすべての活動の基盤ですが、その健康を失ってまで短期的な報酬を求めるのはなぜなのでしょうか?

☞ 短期的に得られる報酬と長期的に得られる報酬はトレードオフの関係にある。

無意識と意識

自分にとって合理的な選択をするためには、人間の心に無意識と意識のふたつの心理プロセスがあることを理解しておく必要があります。

人のことはよく知っていても、わからないのは実は自分のことだと言います。なぜかというと、判断のほとんどを無意識が行っているからです。自分なのですが、無意識に対して意識がアクセスすることができないために、無意識が文字通り、何を考えているかわからないからです。

自分でありながら無意識が何を考えているのかがわからないのが問題です。

無意識が行った選択の理由を問われると、意識が後付けで理由を作ることになりますが、意識が解釈する理由はアクセスできない無意識がしたことなので、なんら根拠がなく信用できません。

☞ 自分にはふたりの自分がいて、その片方の無意識が考えていることがわからない!

情報処理量 無意識と意識

人間は瞬間に1千百万要素以上の情報を取り入れていると言われています。
両目だけで、1秒あたり 1千万以上の信号受信して脳に送信しています。

それに対して、人間が意識的に処理できるのは1秒あたり、約40要素の情報に過ぎません。それ以外の情報は、無意識が処理をしてくれているのです。

意識の外で無意識が自動的に数多くの判断と処理を行ってくれるおかげで、人間は複雑な人生を何とかこなしているのです。

無意識は多種大量の処理を並行的に自動で行ってくれる極めてありがたい存在です。

ジョナサン・ハイトはその著書「しあわせ仮説」において、無意識を大きな「象」、そして意識を小さな「象使い」というメタファーを提案しました。

象は象使いの言う通りにはなりません。無意識の後に進化した意識は象の補助者としての役割程度しか果たすことができませんが、象使いの存在がチンパンジー以下の動物と人間を分ける大きな要素であることは間違いありません。

様々な研究者が無象使い(意識)と象使い(意識)を次のように呼んでその関係を注目しています。

命名者無意識意識
一般的感情理性
キース・スタノヴィッチシステム1システム2
ベイザーマンしたい自己すべき自己
ウォルター・ミッシェルホットシステムクールシステム
ジョナサン・ハイト直観システム推論システム

自分がしたいと思ったことは無意識と意識のどちらが決めたのか?

したいと思ったけれども、やらないとか、できなかった理由はここにあります。

人間の心に無意識と意識の2つの心理プロセスがあるとすると、そもそも、自分がしたいと思ったことはどちらの言い分なのでしょうか?

基本的には求める報酬が実現する時期によって異なります。

求める報酬が今 ☞ 無意識

求める報酬が将来 ☞ 意識

「今」は無意識が支配していると考えて良いでしょう。
どちらにしても決定権はほとんど無意識がもっています。

報酬を得られるのが今である場合はほとんど実行することができて、実行できなかった場合は、報酬を得られるのが将来であることが多いはずです。

今は無意識が支配していますが、将来については意識しか考えることができません。

一人の人間が持つ時間と能力は限られているので、圧倒的に強い無意識が将来のことより今のことに資源を使いたがり、それに対して将来のことを考える意識は短期的な報酬を欲しがる無意識を変えるほどの力はないのです。

☞ 無意識も意識も自分なのですが、このふたつを上手く使いこなさなければ、自分に長期的な大きな報酬をもたらすことはできません。

無意識が将来のことを考えない理由

無意識は遺伝子からの情報と後天的な経験のパターン認識から構成されています。

遺伝子の唯一の目的は自己すなわち遺伝子を乗り物の人間に複製させることです。すなわち子どもをつくることですね。子どもにはその遺伝子の複製子がありますから。

そして注意が必要なのは、無意識は死を認識しておらず、遺伝子は乗り物として使っている人間の将来としあわせに関心がないという点です。

一方、大変複雑な乗り物である人間に遺伝子があらゆるコトを事前にプログラムしておくことができないため、ある程度フリーに判断する遊びを遺伝子は設けました。それが意識です。意識は遺伝子からフリーであるために、乗り物である人間の立場になって考えるように進化しました。

☞ 私たち人間自身のために必要な判断をするためには、死を認識して、人間自身のために意識を上手に使い、無意識にも協力を仰ぐ必要があるのです。

比較考量:短期的に得ることができる報酬と将来の長期的に得ることができる報酬

ケース

長期的な報酬のためには、短期的な報酬を犠牲にしなければなりません。

誰でも経験したことがありそうなケースをあげてみましょう。

<ケース1.大学受験をする高校生>

高校生のA夫君はいよいよ3年生となりました。大学受験が迫っていますが、志望校は早稲田大学の法学部です。鉄道マニアのA夫君は、それまでは毎週様々な電車を撮影するために出かけて行っていました。また、スマホのゲームも深夜まではまっていたのですが、3年生になったその日にその2つともきっぱりとやめてしまいました。

合格するまでは鉄道もゲームも絶つことにしたのです。そして、残された10ヵ月間をすべて志望校の合格するための勉強に費やしたのです。

そして、その集中と努力のかいあって、A夫君は見事に早稲田大学の法学部に現役で合格することができました。

<ケース2.披露宴を控えた新婦>

5年間つきあった彼と晴れて結婚することになったB子さんは、6ヵ月後に予約した披露宴において、子どもの頃から着るのが夢であったウエディングドレスを見事に着こなしたいと考えていました。しかし、就職してからの運動不足と習慣化してしまったスナック菓子の間食のために5kgも太ってしまったため、減量を決意します。

そこで、スポーツクラブに入会してパーソナルトレーニングを受け、大好きなドーナツを3時に食べるのをやめることにしました。

なんとしても披露宴で新郎と両親、知人に綺麗な姿を見せたいと思い、半年間がんばったため、5kgの目標のところ、6kgの減量に成功しました。その結果、予約していたドレスがピッタリとなり、披露宴の出席者から美しい!と賞賛され祝福されたのです。

この2つは、意識と無意識が協調して、短期的に得られる報酬を犠牲にして、長期的で大きな報酬を得ることができたケースです。何が原因だったのでしょう?

なぜ、A夫君は短期的な報酬である撮り鉄とスマホゲームを大学合格という長期的な大きな報酬とトレードオフすることができたのでしょうか?

なぜ、B子さんは短期的な報酬である運動をしないことによる時間的な余裕とスナック菓子の間食という短期的な報酬とウエディングドレスの似合うスタイルをトレードオフすることができたのでしょうか?

☞ 短期的に得られる報酬とそれらを犠牲にして得られる長期的な報酬の比較考量をした結果、無意識もその達成に協力する気になったためです。

短期と長期の比較考量をするための条件

しかし、両者を比較考量するのは容易ではありません。
なぜならば、短期的に得られる報酬がわかりやすいのに対して、遠い将来に得ることができる報酬は想像することが容易ではないからです。

イメージすることができないものを人間は欲しがることはできません。長期的な報酬を想像する力がなければ、比較考量するまでに至らずに、短期的な報酬の一択となってしまいます。想像力が人生を左右します。

そこで、短期、長期の報酬を比較するために必要な前提条件は以下の3つです。

1.長期的な報酬の具体的なイメージを想像する
無意識は言語を持ちませんし、理解もできません。今即得られる報酬は即感じることができますが、遠い将来に得られる報酬は文字でなく具体的なイメージで無意識に感じさせる必要があります。

☞ 将来獲得できる報酬をイメージで具体的な想像する必要があります。

報酬のイメージが具体的になればなるほど、その報酬の価値は上がり、抽象的であるとその報酬の価値は割り引かれます。

2.明確な期限を設定する
報酬の価値は獲得に至るまでの時間によって割り引かれます。
また、期限までの時間の不足は取り組みへの集中に繋がります。

☞ 期限を明確に設定する必要があります。

3.審判を置く
ゴールポストは動かせないようにします。自分以外が目標の達成とそれに至るルールを遵守していたか否かを牽制する必要があります。さらに審判は目標の達成を評価、賞賛してくれる人です。他人から、社会的評価は目標達成への熱意を高めます。

☞ 審判がいない場合には目標と期限を第三者に宣言します。宣言することで、自分を牽制する審判を作ることができます。

A夫君とB子さんの短期・長期の報酬の比較考量

A夫君B子さん
長期的に獲得できる報酬早稲田大学法学部合格披露宴における鮮やかなウエディングドレス姿
短期的に獲得できる報酬・撮り鉄の楽しみ
・スマホゲームのプレイ
・ノンビリした時間
・スナック菓子

短期的に獲得することができる報酬は一見つまらないもののように見えますが、それらが習慣化・自動化している場合に、習慣化・自動化を停止するには大変なパワーが必要です。
さらに、今までしていなかった長期的に獲得できる報酬のための新たな行動を習慣化するのは、さらに困難なことなのです。

☞ 習慣・自動化していることを継続するのは容易なのは、観意識がすでにそれらを経験しているから。

A夫君とB子さんの短期・長期の報酬の比較考量に必要な3つの要件

要件A夫君B子さん
1.長期的な報酬の具体的なイメージを創造する・合格発表で喜んでいる自分と家族の姿
・大学で法律を学んでいる姿
・大学を卒業して働いている姿
・ウエディングドレスを着た自分の姿
・ドレスの自分を見て喜ぶ新郎と両親の顔
・同級生との記念撮影
2.明確な期限来年2月10日10月8日
3.審判の存在・家族
・学校の教師、塾の先生
・同級生
・ウエディングドレスを着た自分の姿
・ドレスの自分を見て喜ぶ新郎と両親の顔
・同級生との記念撮影

長期に獲得できる報酬のイメージも一次的なものをあげただけです。

経験は積み上がっていくものです。一次的な報酬の先に二次的、三次的な報酬が隠されています。その意味で長期的に獲得できる報酬は複利的であり、それらを想像する力の有無は比較考量する長期的な報酬の総量を大きく左右します。

このように、想像力をたくましく長期的に獲得することができる報酬を具体的にイメージすることで、短期的に獲得することができる報酬に対抗することができるようになります。

いかがでしょうか?
自分でやろうと思ったことができない理由と、その対策を提案させていただきました。
人間の持つ反実仮想の力を意識的に使いましょう。

意識が考える長期的な報酬とその具体化するイメージはHappy Ending カードが参考になります。

要約すると

・自分はひとりではなく、無意識と意識の二重の認知プロセスからなっている
・ほとんどの選択は無意識が行っているが、自分(意識)はそれを認知することができない
・無意識は短期的に獲得できる報酬を好み、意識が考える長期的な報酬とはトレードオフの関係にある
・決定権を持つ無意識を自分の将来のための仲間に入れる必要がある
・将来に疎い無意識を仲間に取り込むためには、①具体的なイメージを示して共有化し、②期限を明示して③その達成の審判を置く必要がある。
・長期的な報酬を想像力を使って具体的にイメージしないとその価値がわからず、比較考量ができないために、簡単に短期的に獲得できる報酬に負けてしまう
🔸意識が考える長期的な報酬とその具体化するイメージはHappy Ending カードが参考になる。