「賢明な人でも知らないことに備えることはできない!」
人は「賢いからリスクに備えることができる」のではなく、賢かったとしても、知っている領域にしか備えられないのです。
本稿は「シリーズ 予期的後悔」の第6章です。
第1〜5章を読んでいない人は先にそちらを先に読まれることをおすすめします。
第1章「なぜ、わかりきったリスクに備えないのか ― システム1とダチョウスタイルの心理学」
第2章 双頭の人間モデル ー システム1(直感的思考)とシステム 2(論理的思考)の併存
第3章 反実思考(仮想)とは何か ― 「起きなかった現実」を想像する力
1.ケース:子どものいない夫婦の相続
子どものいない夫婦の場合、
一方の配偶者の財産はすべて残された配偶者が相続すると思って疑わない人が少なくありません。
しかし民法はまったく別の答えを示します。
民法第900条第3項によると、相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合の法定相続割合は
配偶者 3/4
兄弟姉妹 1/4
なのです。
ただし、被相続人が全てを配偶者に相続させると遺言を作成しておけば、その通りになるのですが……
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(遺言による相続分の指定)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
民法におけるこの条文を知らず、
「遺言なんて、まだ早いでしょ」と先送りしていた夫婦がいました。
夫が急逝し、残された妻が住んでいた家は夫名義、預貯金の大半も夫名義でした……
妻は当然、「すべて私が相続する」と考えていました。
しかし、法務局で告げられた現実はまったく違いました。
「4分の1はご主人の兄弟姉妹の相続分です」
と言われ、妻は愕然としました。
家は共有状態にしておくわけにもいかず、売却するか、あるいは義理の兄弟姉妹の“持分を買い取る”しかありません。
「遺言を作っておけば、こんなことにはならなかった…」
妻のこの言葉は、“知らなかった”ことによるリスクの典型です。
未来の後悔は、運命ではありません。
ファクターX(未知のリスクの領域)を知ることによって、初めて将来の後悔が見えてくるのです。
人は「知らない領域」を想像できない。
想像できない未来には基準点(望ましい未来像)を置けず、未来の変化も読み取れない。
これが“無知”が後悔を招く極めてシンプルなメカニズムなのです。
「知っているつもり!?」の無知が最も危ないと言えます。
無知の後悔を将来味わいたいですか?
2. リスクとは“未来の変化の幅”である
本稿で扱う「リスク」は、一般的にとらえられている“悪いこと”とは異なります。
ここでいうリスクとは、「変化」です。
リスクは未来がどの方向に、どの程度変化しうるかという“幅”です。
未来には下の図のように3つのポイントが存在します。

現在に対して、
1.最善の未来(Good future)
2.最悪の未来(Bad future)
3.その間に人が置く基準点(Goal future)
この“変化の幅”こそがリスクです。
ファクターXとは、この未来の変化が起こりうる“領域”のことです。
ファクターx(未知のリスクの領域)を知らなければ、最善と最悪の幅を認識することもできませんし、その中で自分が目指すべき基準点を設定することもできません。
地震も、相続も、健康も、介護も、判断力の低下も、すべてが未来を形づくる“変化の領域”であり、その存在を知らなければ人間であっても、賢明な人であってもその領域におけることについては何の想像力も働かないのです。
3. 予期的後悔のフロー
システム2(論理的思考)はファクターXをトリガーとして、下の図のプロセスで未来をデザインします。
未来のリスク(変化)を発見するのはシステム2(論理的思考)です。
詳細は参照「第6章 予期的後悔ー理論編ーシステム1とシステム2の協働」

4.ファクターxがなければ始まらない
「賢明な人でも知らないリスクに備えることができない」理由は、
予期的後悔のプロセスを知ったとしても、その方程式に代入する”x”の値がわからなければ、答えは出ないからです。
「賢明な人でもファクターxを知らなければ、将来のリスクに備えることはできない」
従って、人間の思考の起点となるファクターxが何ものにも増して重要であるということです。
5. 老後のファクターxを漏れなくチェックする方法
ファクターxは様々な分野で必要となる変数ですが、自分の心身が弱くなる老後のリスクは早いうちに知っておかないと備えることができません。
老後のファクターxをどこで見つけますか?
多くの人は、老後に潜むファクターXを知らずに老後に突入してしまいます。知らない領域は想像できず、想像できない領域には基準点すら設定することができません。

(Happy Ending カードNO.G-1 法定後見人の確認)
このカードを知っていれば、子のいない夫婦は遺言を書くと思いませんか?
【Happy Ending カード】
Happy Endingカードは、49枚のカードで老後におけるファクターX を体系化し、未来の変化の領域を「見える化」するゲーム!
☞ 49のファクターXを知れば、未来の変化の幅が見えます
☞ 変化の幅が見えれば、基準点を置くことができます。
☞ 基準点を設置すれば、予期的後悔が起動します。
☞ 予期的後悔が起動すれば、選択が変わります。
🎯 ファクターXとは、老後のリスクの領域と幅
🎯 賢明な人でもファクターxを知らなければ、老後のリスクに備えることはできない
🎯 Happy Endingカードは、49の領域をカード示す未来の地図
シリーズ【予期的後悔リテラシー】
第1章 なぜ、わかりきったリスクに備えないのか ― システム1とダチョウスタイルの心理学
第2章 双頭の人間モデル ー システム1(直感的思考)とシステム 2(論理的思考)の併存
第3章 反実思考(仮想)とは何か ― 「起きなかった現実」を想像する力
第5章 基準点 ー 反実思考(if〜then……)のトリガー








