How? Happy Endingのために

遺言を書き換えた理由 FDR フランクリン・D・ルーズベルトの場合

FDRとは?

米国の大統領であったフランクリン・デラノ・ルーズベルト。
JFKはジョン・フィッジラルド・ケネディであることはご存知でしょう。

「遺言などどうでもよい、死んだ後のことは好きにしてくれ……」という人が日本では少なくありません。財産の多寡にかかわらず。
それには遺言の効果に対する決定的な理解不足があります。

遺言の効果は、相続(死)後にしかないので、死後の自分には関係はない……
法的にはその通りですが、遺言を作成することによって、被相続人(本人)の生前の幸福感の向上と周囲との関係が大きく変わることを、FDRの遺言のエピソードから、紐解いてみます。

FDR フランクリン・D・ルーズベルト

FDRはアメリカ史上、ただひとり4選された大統領であり、第二次世界大戦で連合国を勝利に導き、国際連合の設立に尽力したことはよく知られています。

しかし、FDRが障害者(小児麻痺で下肢が不自由)であり、生涯病気と闘った大統領でもあったことを知っている人は少ないでしょう。

幼いことから咽頭が弱く、盲腸が破裂し、チフス、肺炎、1918年のスペイン風邪にも罹患し、高血圧でした。左眉上のシミが皮膚がんであり、各所に転位していたとする説も近年浮上しています。そして、死因は脳卒中でした。

FDRと秘書マーガリート・ラハンド(ミッシー)

満身創痍とも言えるFDRをその激務の中で支えたのは、個人秘書であったミッシーことマーガリート・ラハンドでした。

長身で凛とした美貌の持ち主であり、FDRからは忠実かつ勤勉、また機転と心の優しさから来る立ち振る舞いの魅力を備えていると評価されていました。ミッシーはFDRの副大統領候補選挙を皮切りに20年にもわたり、第一秘書を務めてきました。毎日夜中まで仕事をするFDRに付き合い、彼が小児麻痺を発症してからは、そのリハビリにも付き添ったのです。

また、ルーシー・マーサーとの浮気により妻エレノアとの婚姻関係が破綻していたFDRの第二の妻とも言われる関係でもありました。ミッシーは、このような秘書としての能力と個人的な関係から、大物政治家でもホワイトハウスでFDRと面会するためには、彼女の了解が必要とするほど大きな力を持っていたのです。

ミッシーの発病

そのようなミッシーでしたが、1941年6月脳梗塞で倒れ、右腕、右足の運動機能と筋の通った会話をする能力を失う悲劇に陥ります。20年にわたる激務とFDRの他の女性への関心が彼女の抵抗力を奪っていってしまったのです。

当然、秘書としての仕事はできず、ホワイトハウスを去ることによって、FDRとの関係も終焉を迎えます。ミッシーのすべてがこの時失われてしまったと言っても過言ではありません。その原因の多くはFDRにあったのです。

遺言を書き換えるFDR

ミッシーの危機に対して、政治家として長年感情を表に出すことを抑制してきたFDRの態度は、周囲が不快に感じるほど冷淡であるように見えたようですが、FDRはミッシーの治療が数年にも及ぶことを知り、24時間の看護体制、医療費の負担、医師への礼状の作成など様々な手を打ちます。

そして、彼は自分が死んだ後の彼女を心配して、すでに準備していた自分の遺言を書き替える決断をしたのです。

FDRは自分が生きている間は、自分自身の意思でミッシーに対して経済的な支援をすることが可能だが、自身の健康状態とミッシーとの年齢差とを考え合わせると、自分の方が早く死ぬ可能性が高いと考えていました。

そして、愛人関係にあったミッシーを、自分の死後、妻エレノアをはじめとした家族が十分に面倒を見てくれるとは限らないと思ったのかもしれません。

FDRは、5人の子に残すはずであった自身が所有する不動産の半分の権利(当時で300万ドル相当の価値)を「生涯の友人マーガリート・ラハンドの医療・看護・治療に充てるために」遺すように遺言を書き換えたのです。

5人の子供たちを相続人から外すことに反対した弁護士に対して、FDRはこう言ったとされています。

「子供たちは自分のことは自分でできるが、この忠実な助手はそれができないのだよ…………」

FDRは、公私ともに自分に人生を捧げてくれたミッシーに対する自分の責任を遺言に昇華させたと言えるのではないでしょうか。

信託の機能

財産の半分をミッシーに遺贈するように遺言を書き換えましたが、ミッシーの死後、使いの残しは5人の子どもに残すように指定しました。ミッシーは未婚でしたし、子もいなかったのです。
信託の機能が遺憾なく発揮されていました。

ミッシーの死と遺言の効果

FDRが遺言を書き換えたにもかかわらず、ミッシーはFDRよりも早く、1944年7月30日に亡くなります。ミッシーがFDRよりも早く死んだために、結果としては、遺言を書き替える必要はなかったと言えます。

そして、FDRは彼女を追うように第二次大戦の終結を待たずに1945年4月12日に亡くなるのです。

はたして、この遺言の書き換えは無駄なことだったでしょうか。

遺言の生前の効果

◇ ミッシーに対する心の負債を返済し、自分の内面を救済した。

◇ FDRは自身のミッシーに対する想いを、第三者にも明らかにすることができた。

ミッシーに財産を遺す遺言はFDR自身を幸せにしたはずです。

そして、FDRの遺言は、ミッシーを受遺者とすることによって、ミッシーとの関係を公的には私的にも永遠のものとしたのです。

おひとりさまのサポート(日本において)

FDRは遺言の書き換えによってミッシーを守っただけではなく、自分自身をも救い、守ったことがおわかりいただけたと思います。

私は、遺言を含む公正証書5点セットの作成のサポートを年間数十件行っていますが、遺言が生きている本人をFDRのように救い、守る遺言の生前の効果を目の当たりにすることが少なくありません。次のようなケースが多いのでご紹介します。

老人ホームに入居する際には身元保証人(引受人)が必要です。費用を保証し、最終的には遺体を引き取るという非常に重い責任を担うことになります。配偶者や子が引き受ける場合が一般的ですが、配偶者と子がいないお一人様は身元引受人に困ります。

そこで、必ずしも日頃の付き合いがあったわけではなくとも、親戚に頼まざるを得なくなります。本人が高齢な場合、親や兄弟は生存していたとしてもすでに高齢なので引受は困難です。

そこで、縁の薄い姪や甥が引受を頼まれるケースが多いのです。姪や甥にしても、その依頼者に今までに1〜2回しか会ったこともないような人も多く、多くの場合は義理で、やむを得なく引き受けることが多いようです。(ここでは叔父と姪にしておきます)

しかし、一旦引き受けたものの、身元引受人を辞退したい人は少なくありません。
少し驚きますが、姪に重い責任を頼んでおきながら、感謝する高齢者は少ないのです。加齢で気持ちに余裕がなくなり、感じなくなってしまったのか、親戚だから当然だろうと考えてしまうのでしょうか、第三者として見ていても、とても不思議な状況です。

そのような中で、私がコンサルティングに入ると、身元引受人の責任の重さと、それを姪に頼らざるを得ないことを理解されるようになります。第三者のサポートは必要です。姪に対する感謝の気持ちに気づき、法的に権限をきちんと与えておく必要性に気づきます。

そして、公正証書5点セットを作ることになるのですが、財産管理委任契約の受託者と任意後見人には姪になってもらうしかありません。そこで、はじめて頭を下げて姪に本人が頼むことになるのです。口頭ではなく、契約書を取り交わすことが、一層その内容の重要性と負担を双方に明らかにします。

絆を強くする遺言の効果

さらに、残された財産があった場合に誰に残しますか?と確認すると、従来はどうでもよいと言っていた人が、変っています。身元引受人であり、財産管理委任契約の受任者であり、医療の代理意思表示者である姪に全財産を残したいと考えるようになるのです。

もし、遺言がなければ、世話になっている姪に法定相続割合部分しか行かないのは申し訳ないと感じるようです。これはこのようなステップを踏むと自然なことです。

相続人が姪ひとりであれば、遺言執行人も姪とします。そして、遺言の内容を遺言執行人である姪に本人から遺言の内容を伝えます。ここまでくると、今まで冷ややかだった叔父と姪の関係が全く変容します。

お互い腹を割って相談することができて、両者公正証書によって権利義務が明らかになり、遺言によって、姪はそれに酬いられることが明らかになり、叔父は少しでも遺産が姪に残すことを自己決定したことに喜びがあるのです。

遺言の存在は、本人の生前のQOLを大きく左右し、生きたお金の使い方になることを感じていただいたのではないでしょうか。

◇遺言は本人を含めて生前から関係する人を幸せにする力を持っている。
◇この生前の遺言の効果を知れば、書きたいひとは増えるだろう。

遺言はどれだけ書かれている?

日本では毎年130万人が死亡しています。

人口ピラミッドを見ると、今後益々その数は増えていくと思われますが、それに対する公正証書遺言の作成数は年間11万件程度(2017年 日本公証人連合会)に過ぎません。自筆証書遺言の数はわかりませんが、毎年約130万人発生する相続に比べてごくわずかです。日本人は遺言を使ってもっと幸せになることができるはずです。

five-star 公正証書5点セット

FDRの遺言からスタートしましたが、遺言は死後の財産の分与しかできません。
老後のサポートには遺言に加えて、財産管理委任契約任意後見契約医療に関する選択死後事務委任契約の4点を加えた公正証書5点セットを備えれば、老後の備えの5つ星=five-starの獲得です。

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reference

映画「私が愛した大統領」

FDRに従兄弟のマーガレット・サックリーが主人公ですが、FDRとミッシーの関係と背景を見事に表現した映画です。

書籍「フランクリン・D・ルーズヴェルト」(上・下)

FDRの家族と女性関係を政治と絡めながら詳細に描写しています。
FDRとミッシーのことも詳細に。