B.セカンドライフプランニング

人生の設計図: セカンドライフプランニング

アリとキリギリスの寓話ではありませんが、
学業であろうと、スポーツであろうと、仕事であろうと、成り行き任せで上手くいくほど人生は甘くありません。
それは子どもでも知っています。

受験生は受験日に合わせて、スポーツの選手は出場する大会に合わせて、ビジネスマンは設定された仕事の期限に向けて必要な作業を考えた上で、タイムスケジュールに落とし込み、実行した都度消し込んで、ふたたび作業とスケジュールを調整し、見直しをしていきます。

それぞれの目標に至る設計図を書いていますよね?
と聞くと、
「もちろん!」という答えが返ってきます。

ところが、多くのシニアに人生の設計図をちゃんと書いていますか?
と聞くと、
「…………」

もちろん!と言える人が少ないはなぜでしょうか?

大学受験、スポーツ、仕事については設計図を書いてPDCAを回しているが、もっとも大切な自分自身と家族の人生の設計図は書いていないのです。

人生の設計図は不要でしょうか?

生命保険の加入の際に経験したライフプランニング

ただし、生命保険に加入したことがある人の中には保険のセールスパーソンからライフプランニングを受けたことがあるのではないでしょうか?
ライフプランニングとは自分の人生の将来の計画を目に見えるように文字に書き下ろすことです。

それが、人生の設計図です。
それをもとに生命保険の保険金額を決めたはずです。

しかし、その後綺麗に印刷されたライフプランニングのシートを見返したことがあるでしょうか?

残念ながら、保険のセールスパーソンがライフプランニングをしてくれるのは、保険の保障額を決めるためであって、あなたの人生のためではありません。

せっかくのライフプランも保険の加入する際に見ただけで、保険証券のフォルダにしまい込まれてしまい、時々見返しながら、あるいは見直しながらプランを実行している人は、ほとんどいません。

学業、スポーツやビジネスという人生の部品については、設計図を書いてPDCAのサイクルを回すことを重視しておきながら、人生全体については「P」すらもせずに生きているのはなぜでしょう?

ライフプランニング(人生の設計図作り)が行われない理由

🔹 複雑に見える人生
受験勉強、ひとつひとつの仕事に比べると人生全体はとても複雑に見えます。受験勉強には過去問や予備校講師があって計画を立てることができます。仕事については前例を確認し、上司の指導を受けることができますが、人生全体について考える指針が見あたらない。

🔹 定期的な見直しの容易さ
PDCAを回すためには容易に現状を把握することができて、自分で見直すことができる仕組みが必要です。見直しをする度に保険のセールスパーソンを呼ぶわけにはいきません。

🔹 100年の人生を俯瞰した設計図
保険のセールスパーソンが寄ってくるのは保険に加入することができる若いうちだけです。人生100年時代といわれる今、ライフプランを作るのであれば、前半生だけでなく100年の人生を俯瞰したライフプランを作る必要があります。

🎯 問題は今までではなく、これからです。

若い時に気づかないことがあります。
心身が健常である間は何かがあっても自分でなんとかすることができますが、心身が衰える老後は若い時にできたことができなくなるのです。

だからこそ、今のうちに老後の設計図を書いて備えておくことに意味があるのです。年老いた自分と家族の姿を想像してみてください。

人生の後半生の設計図をセカンドライフプランニングと言います。では、セカンドライフプランニング(老後の設計図)はどのように作るのでしょうか?

ライフプランニング(人生の設計図作り)とは

FP(ファイナンシャルプランナー)が行う一般的なライフプランニングは次の3Stepで行います。

ライフイベント(狭義のライフプラニング)の作成→ファイナンシャルプランニング→リスクマネジメント

<1>ライフイベント(狭義のライフプランニング)

まず、今後の人生において何(イベント)をしたいかをリストアップします。結婚、出産、教育、住宅、車、趣味、老後の生活資金などが中心となります。これらをライフイベントと言います。

<2>ファイナンシャルプランニング

次に、リストアップしたライフイベントの実行に必要な費用(支出)と得るべき収入をキャッシュフロー表に入力して計算し、実現可能性をシミュレーションします。

縦軸に収入と支出を取り、横軸に時間軸(年単位)をとります。そして、縦軸の上段に収入を、下段に先ほど考えたそれぞれのライフイベントにどれぐらいの費用がかかるかを見積って入力します。収入から支出を控除して、前年の貯蓄残高に加えると、最下段に累計の貯蓄残高が計算できるわけです。貯蓄残高がプラスの傾向が続けば実現可能なプランですが、赤字になるようであるならば収入を増やすか支出を削減するかどちらかの対処が必要であることがわかります。

キャッシュフロー表は日本FP協会のサイトで作ることができます。
お試しください。

☞ 将来の収支が予想できる 家計のキャッシュフロー表

<3>リスクマネジメント

最後に、病気や事故等で思わぬ出費の発生と収入がファインナンシャルプラン通りに入ってこない場合に備えて、保険を手当します。これがリスクマネジメントです。

以上の3Stepによって、人生の目標と資金的な裏付けと想定外の事態に備える保険の用意ができたことになるのですが、この一般的なライフプランニングのスキームに潜む問題点についてこの後に指摘します。

ライフプランニングの効用

主な効用は以下の3点です。

<1>今まで考えていなかった将来のことを、ライフプランニングを通じて、大まかに考えることができる。

<2>ライフプランの実現に必要な資金を把握することができる。そして、ライフプランの実現可能性を収入と支出、貯金残高の視点から総合的に判断することができる。

<3>作成したファイナンシャルプランニングを阻害するリスクを知って、ヘッジしたいリスクに対して、保険を手当して事前に備えておくことができる。

生命保険のセールスパーソンの意図

ライフプランを作ってくれる生命保険のセールスパーソンの意図も理解しておきましょう。

<1>見込客にアプローチする有効なきっかけとすることができる。

<2>保険にライフプランニングというオマケを付けることができる。

<3>ライフプランニングを通じて、提案する保険に必要な見込客の情報(家族構成、職業、収入、保有資産、価値観等)を入手することができる。

<4>ライフプランニングのプロセスを通じて、見込客と親しくなることができる。

ライフプランニングは生命保険のセールスパーソンにとって、見込客からプライバシーにかかわる情報を気兼ねなく聞き出すことができる「魔法の杖」のようなものだと言えます。

しかし、あくまでもその目的は保険の募集であり、ライフプランニングの内容が販売したい保険への誘導が目的であることに留意する必要があります。

ライフプランに対する信憑性と信頼感

冒頭に書いた通り、多くの人は、保険のセールスパーソンに作ってもらったライフプランを、保険契約時の参考資料としか活用しない残念な理由は次の通りです。

<1>本人が、ライフプランの内容に納得感が持てず、その通りに実行するメリットを感じないから

自身と家族のセンシティブな情報を、生保のセールスパーソンに正直に包み隠さず申告する見込客は、多くはありません。

収入については、かさ上げした数字を申告する場合があるでしょうし、それまで、考えたこともなかった今後のライフイベントについてセールスパーソンから突然問われても、思いつきの付け焼き刃な答えしかできません。

子どもの進学先とか、住宅の購入予定金額、購入予定時期などについても確信があって申告したわけでもない情報から作られたのであれば、ライフプランに対する納得感があろうはずがありません。

その結果できたライフプランが綺麗に印刷されて見せられても、保険金額の根拠程度にしかならないのは仕方がないかもしれません。

一方、予め将来のことを考えており、正直にデータと考えを申告すれば自分の人生にマッチしたライフプランを作ることができます。

☞ 自分のライフプランは自分自身で作らないと!

<2>ライフプラン通りに行くはずはないと思っている。

いい大人であれば、今までの人生が必ずしも思った通りに行かなかったことは経験済みですから、今後数十年にわたるロングタームのライフプランがそのまま実現するはずはないと考えるのは、当然のことだと思われます。

ライフプランは適宜見直しをする前提で作成するものです。しかし、保険のセールスパーソンは自分の作成したライフプランとそのお客様の人生をフォローしているわけではなく、ライフプランの作成は一度きりであることが多いのです。ですから、一度作られたライフプランはそのまま放置され、忘れ去られることが多いのです。

☞ ライフプランは進捗を確認して見直すことで価値が出る

<3>ライフプランに対する牽制効果

ライフプランに限らず、PDCAはすべてそうですが、Plan止まりの理由は、第三者からのCheckが行われないためです。

ビジネスでは組織内でフォローする仕組みがありますが、あなたにライフプランを提案したセールスパーソンはその後フォローしてくれているでしょうか?

本当に実現したいライフプランであるならば、第三者、それは家族でもかまいませんが、定期的にチェックすることにする必要があります。

☞ 第三者にチェックされないライフプランは実行されない。計画を第三者に宣言するのが簡単な牽制効果になる

注意すべき見落とされるライフイベント

本人と保険のセールスパーソンが気づいていない、あるいは意図的に対象から外してしまうライフイベントがあると納得感のないカタチだけのライフプランとなってしまいます。

ライフイベントは幸福度を上げることばかりではありません。幸福度を下げるライフイベントを無視すると現実感のない夢物語のようなライフプランになってしまいます。考えたくない、好ましくない、縁起が悪いと言われるライフイベントをはずさないように注意しましょう。

<1>想定外のライフイベント

賢明な人でも知らないことをライフイベントとしてリストアップすることはできません。自分が経験していないことは他人の経験から学びましょう。

<2>対象が前半生に限られて、後半生(セカンドライフ)が対象外

ライフプランニングという以上、生涯の計画であるべきですが、死をゴールとしたセカンドライフ(老後)のライフイベントが漏れがちです。

<3>考えたくない、想定したくないこと

ライフイベントに盛り込むのは、人生の上り坂のタイミングでは、結婚、出産、子育て、住宅、クルマ、旅行、趣味など幸福度を上げるイベントばかりである傾向があります。

人生の下り坂には、想定したくない後ろ向きなライフイベントが少なくありません。自分と家族の生活習慣病(がん、認知症を含む)の発病、失業、離婚、死亡、介護、家族の不和等様々考えられます。プランニングは最善と最悪の双方を想定する必要があります。計画は悲観的に、実行は楽観的にと言うではありませんか。

ライフプランニングでは大きな変化に対する対応は、3Stepめのリスクマネジメントの役割です。しかし、ここが問題なのは、一般的なライフプランニングでは、予定したファイナンシャルプランニングが実現できない場合のリスクマネジメントという位置づけなので、その中には、金銭で解決することができないリスクは検討の対象外となってしまうことなのです。

健康、孤独、生きがいなどのリスクは保険会社の保険でカバーすることはできません。リスクとして別途管理する必要があります。

<4>親のことが、ライフプランニングの対象外になっている

一般的なライフプランニングの対象は、本人と配偶者と子どもまでです。何か足りないものがあると思いませんか。

それは両親のことです。人生100年時代は長生きする親と長く付き合うことになります。90歳の親を70歳の子と50歳の孫が面倒を見るのは珍しい光景ではありません。病気の療養、介護、相続、お墓等長寿化に伴って、子は高齢化した親の面倒を長く見ることになります。

そこには、多くの手間と時間とお金がかかるはずですが、それがライフイベントに入っていないのは片手落ちというよりは、むしろ誤ったライフプランであるとも言えるでしょう。

親の介護の資金をキャッシュフロー表に入れる必要の要否も、考えておく必要があります。

ほどほど人生のすすめ

ライフプランがお蔵入りする理由、意図的に見落とされるライフイベント、不完全なリスクマネジメントについて触れてきました。

人生には3つのスタイルがあります。

人生は山あり谷あり……ライフプランは、所詮おおよその設計図なのです。
しかし、「成り行き人生」のように将来のことを何も考えずに生きるのは少し心配だという人は大きなリスクには備えた上でゆったりと暮らす「ほどほど人生」がよいのではないでしょうか。

人生は当初の計画通りに直線的に進むような単純なものではなく、航海のように行ったり来たりと、遠回りしながら歩むものであることを我々はすでに経験済みです。当初の計画の策定とその実行にこだわる「とことん人生」よりも、多少遠回りをしたとしても、大きなリスク、すなわち難破はしない備えをしておけば、のんびりと航海を楽しめるのではないでしょうか。

多少の遠回りと書いたのは、難破しないように大きな備えをしておくためには、それなりの時間と費用がかかるからです。

そこで、後半生、セカンドライフにおけるライフプランニングのポイントは前半生とは少し異なり、後半生における大きなリスクに備えておくことにあるのです。

保険でカバーできるリスクはごく一部

ファイナンシャルプランナー(生命保険のセールスパーソン)が行うライフプランニングにおける第3のステップのリスクマネジメントには問題があります。リスクマネジメントでカバーすべきと説明されるリスクの範囲が、金銭でカバーすることができる範囲のリスクに限定されてしまうことです。それは彼等の仕事上やむを得ないと言えます。彼等はお金の専門家なのですから。

しかし、少し考えてみるとわかるように、あなたを難破させるリスクは、保険事故だけではありません。人生の4大不安は、終点でもある死を起点としたお金健康孤独生きがいです。それらは相互に影響しあっていますが、生命保険、損害保険でカバーできるのは、お金でカバーすることができる問題であり、その一部でしかありません。

そう考えると、あなたが保険のセールスパーソンのアドバイスをもとに行っているつもりのリスクマネジメントは、あなたの人生全体のどのくらいをカバーしているのでしょうか?

人生の設計図に折り込む必要があるのはお金のリスクだけでなく、すべてのリスクなのです。

セカンドライフプランニングを作るタイミング

生命保険に加入する際に作った20〜30代は変化が激しく、将来を予測して設計図を書くのは難しいでしょう。

それに対して40代に入ると、結婚するか否か、子どもの有無とともに今の仕事の行く末も見えてきます。さらに自分と家族の健康状態についても冷静に観察することができるようになります。

従って、後半生の人生の設計図作りは40代に入った時がベストタイミングです。

そして、もうひとつ設計図に入れておきたいのは両親の介護と相続です。40代になると親の介護と相続に直面する人が少なくありません。それに先んじて自分の人生の設計図に家族のことを盛り込んでおくのです。

設計図は作っただけでは意味がありません。一度作った設計図をPDCAを回しながら見直し、習慣化していくためにはそれなりの時間が必要です。だから、40代で一度人生の設計図を書くことが大事なのです。

漏れのないプランニングにHappy Ending カード!

ライフプランニングに何を盛り込めばよいのか?
考えたくないこととは何なのか?
何か漏れていることはないだろうか?

わかっているつもりだけれども、いまひとつ自信がないという人はHappy Ending カードをプレイしてみてください。人生の4大不安である健康、お金、孤独、生きがいのリスクすべてをチェックすることができます。自分の人生に大きな影響を与えるリスクを取り出して備えておけば、ほどほど人生をゆったりと過ごすことができるのです。

あなたのセカンドライフプランニングに必要となるライフイベントを漏れなく拾い上げてチェックリストを創りましょう。

 

Happy Ending カード

要約すると

・設計図を書かず、そのPDCAを回さずに上手くいくほど人生は甘くない

・心身の衰える老後こそ予め設計図が必要であり、今から備えるべき

・ライフプランニング(人生の設計図作り)は、100年の人生を俯瞰して作るべき

・ライフイベントには考えたくないこともきちんとリストアップする

・ライフプランを定期的に見直してPDCAを回す

・ライフプランはその通りにはならない。ほどほど人生で満足すべし

・金銭で解決できないこともライフプランに盛り込む

・Happy Ending カードはセカンドライフプランニングの起点となる